2016 Fiscal Year Annual Research Report
強誘電体ソフトモードを利用した量子トランスデューサの開発
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16F16364
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇佐見 康二 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (90500116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
GLOPPE ARNAUD 東京大学, 先端科学技術研究センター, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2016-11-07 – 2019-03-31
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Keywords | 量子トランスデューサ / 強誘電体 |
Outline of Annual Research Achievements |
強誘電・常誘電相転移をする非線形結晶は、その相転移点近傍で、誘電率や電気分極の相関長等、様々な物理量が発散傾向を示す。この背後には、応答関数の極に対応するモード(Γ点近傍の光学フォノンなど)がソフト化し、系の電磁波に対する応答関数に異常な振る舞いをもたらす。本研究では、この巨大な電磁応答を示すソフトモードに注目し、非線形結晶の強誘電・常誘電相転移点近傍で、マイクロ波から光への高効率でコヒーレントな変換を目指す。
H28年度は、強誘電・常誘電相転移を示すDKDP結晶とマイクロ波の結合を実現するマイクロ波共振器の設計を行い、作製した。実際に作製したマイクロ波共振器の電場が集中するギャップ領域に結晶を導入し、強誘電・常誘電相転移点をまたいで温度を掃引しながら、マイクロ波共振器の共振周波数とロスを測定し、結晶入りの共振器が結晶の相転移の起因する特徴的なマイクロ波応答をすることを確認した。実験結果から、転移点から少し低温側の強誘電相で異常なマイクロ波共振器のロスの増大が見られ、目下、このロスの起因を研究中である。
マイクロ波応答のみならず光学応答に関しても実験を実施した。作製したマイクロ波共振器には、光学的な結晶へのアクセスを可能とするホールがあり、そのホールを通じて光は結晶によって偏光が変調される。この変調度を温度の関数として測定すると、転移点から少し低温側の強誘電相で異常なマイクロ波共振器のロスの増大した前述の点で、最大となった。この現象に関しても、目下、その機構を研究中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度の目標であった、DKDP結晶のマイクロ波共振器を利用した強誘電・常誘電相転移の観測を実現できた。この成功のもとには、マイクロ波共振器の形状としてre-entrant型を採用し電場を結晶の位置で集中できたことにある。
DKDP結晶は、その強誘電・常誘電相転移点付近で光学フォノンがソフト化、すなわち格子ポテンシャルの非線形化が生じるため、転移点付近でマイクロ波-光変換が最大化するものと予想していた。ところが、マイクロ波-光変換は、転移点より低温側の強誘電相のある温度域で最大化され、その原因が今のところよくわかっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の、転移点から少し低温側の強誘電相で異常なマイクロ波共振器のロスの増大と、それに伴うマイクロ波-光変換効率の増大の謎を解くため、さらに2つの共振周波数の異なる共振器を設計、作製した。今後は、これら3つの共振器を用いて以下の研究を推進する。それぞれの共振器に同一のDKDP結晶を導入し、そのマイクロ波応答と光学応答を温度を転移点をまたいで掃引しながら測定する。その上で、マイクロ波共振器のロスや、マイクロ波-光変換効率の最大点の差異を特定する。
この系は、マイクロ波共振器モードという離散モードを軸に、電気分極モード、伝搬マイクロ波モード、伝搬光モードという3つの連続モードが結合する物理系になっており、この系を用いたマイクロ波-光変換の物理的な機能の詳細が明らかでない。今後は、この物理機構の理論モデルの構築も実験と並行して進める。特に、DKDP結晶が圧電性を持つことから結晶の音響フォノンモードも結合系の挙動に関与している可能性もある。上述の予想外の実験結果との関連も念頭に、音響フォノンモードの影響も加味した理論モデルの構築を進めたい。
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