2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本周辺の海面水温場が局所的な豪雨・豪雪の予測可能性に与える影響の定量的評価
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16H01844
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 尚 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (10251406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
万田 敦昌 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00343343)
川瀬 宏明 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (20537287)
飯塚 聡 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 総括主任研究員 (40414403)
茂木 耕作 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 大気海洋相互作用研究分野, 研究員 (70421881)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 領域大気モデル / 予報実験 / 高解像度海面水温データ / 集中豪雨 / 豪雪 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本近海の海面水温分布やその変動,データセット間のばらつきが,夏季豪雨や冬季降水に与える影響について,以下の様な新奇性に富む成果が挙った. 1) 高解像度の海面水温データ(FORA SST)の冬季降水再現への有効性評価のため,それに時空間平滑化を施した感度実験との比較を実施した.月積算降水量には空間平滑化の影響が卓越したが,日降水強度に対しては時間平滑化の影響も特に冬季モンスーン卓越時に明瞭に認められた. 2) 平成25年8月の秋田・岩手豪雨を対象に海面水温分布のデータセット間のばらつきが数値モデルの豪雨再現性に及ぼす系統的誤差を調査し,水温バイアスから豪雨降水帯の位置への影響を見出した.また,水温バイアスから領域平均降水量への影響では,水蒸気量を介した直接的影響を上昇流強度を介した間接的影響が凌駕することを見出した. 3) 平成29年7月九州北部豪雨を対象とした領域気象モデル実験から,データセット間に存在する東シナ海の海面水温における約1度の不確定性がもたらす6時間雨量の誤差が,理論的に予想される8%の誤差を大きく上回ることを見出した. 4) 平成30年7月の西日本の豪雨への海洋からの影響評価にも積極的に取り組んだ.まず,気象庁メソ気象解析データから,豪雨域へ流入する強い暖湿気流へは黒潮からの蒸発によっても水蒸気が供給され続けたことを見出した.領域気象モデル実験から,豪雨をもたらした水蒸気の大半は東シナ海経由で流入したものの,北方からの対流圏下層の乾冷気塊が日本海からの膨大な蒸発で暖湿化し,対流発生により有利な大気成層構造を梅雨前線近傍に作り出したことも分かった.さらに,夏季平均及び各月平均の気温・水温上昇トレンドを除去した感度実験から,豪雨に対しては気温上昇の大きさに加え,水温上昇及び気温上昇の鉛直分布の変化を反映した大気の湿潤安定性の変化が大きく影響することも分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように,本プロジェクトは概ね順調に進展している.研究計画通り,海面水温データセットの違いが夏季の豪雨雨量に及ぼす影響について着実に成果を上げている.また,当初予定していた冬季の降水についても,海面水温の時間・空間解像度の影響評価について論文投稿した.特に進展した点としては,論文公表した平成25年8月の秋田・岩手豪雨を対象とした数値実験から,海面水温の上昇に対する雨量の増加に対し,その熱力学的な(直接的)影響よりも力学的な変化を通じた影響の方が極めて高いことを明らかにした点である.さらに,プロジェクト発足時には予期していなかった平成30年7月豪雨に対しても,その社会的影響を鑑み,近年の気温と海面水温の上昇の影響を調べる感度実験を即座に実施し,高分解能のメソ気象解析データに基づき黒潮からの蒸発の増大の要因やその暖湿気流への寄与の評価を実施し,一部の成果を論文投稿するとともに,こうした最新の解析結果を公開講演会やマスコミを通じて社会に発信することができた.但し,東シナ海の海洋表層変動と梅雨前線豪雨とを統計的に関連付ける試みについては,海洋客観解析データにおける混合層変動の評価が予想以上に困難であることが判明し,平成29年九州北部豪雨直前に起きた急激な水温上昇についての事例解析を行うこととした.
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Strategy for Future Research Activity |
論文公表した平成25年8月の秋田・岩手豪雨における日本海海面水温の影響評価に引き続き,他の豪雨・豪雪事例についても,高解像度の海面水温分布や変動,さらにはそのデータセットによるばらつきが豪雨の再現性にもたらす系統的な誤差を明らかにし,気象状況による違いとの関係についても調査する.特に,社会的影響が甚大であった平成30年7月豪雨(西日本豪雨)と平成29年7月九州北部豪雨についての論文化を早急に進める。特に,西日本豪雨については,現在投稿中の論文で明らかにした日本近海の黒潮や日本海からの蒸発の影響が,実際の雨量の増加にどの程度寄与したかなどに焦点を当てて数値実験を実施し,その結果を論文化する.加えて,豪雨直前に日本海を北東進した台風7号や,東シナ海南部で観測された組織化した積乱雲群からの間接的な影響の評価も行う.一方,平成29年7月九州北部豪雨については,その直前に起きた東シナ海北部や日本海南西部での急激な水温上昇の寄与に着目した数値実験をに基づく論文化を進めるとともに,急激な水温上昇をもたらした過程の解析も進める.
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Research Products
(35 results)