2018 Fiscal Year Annual Research Report
弥生初期水田に関する総合的研究-文理融合研究の新展開-
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16H01961
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
本村 充保 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 係長 (00270778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊岡 卓之 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 副所長 (00250374)
稲村 達也 京都大学, 農学研究科, 教授 (00263129)
菅谷 文則 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 所長 (10275175)
金原 正明 奈良教育大学, 理科教育講座, 教授 (10335466)
佐藤 洋一郎 京都府立大学, 和食文化研究センター, 特任教授 (20145113)
岡田 憲一 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 指導研究員 (20372170)
川島 茂人 京都大学, 農学研究科, 教授 (40354039)
絹畠 歩 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 主任技師 (50638103)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 実験考古学 / 弥生初期水田 / 水稲生産力 / 文理融合型研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに実施してきた秋津遺跡・中西遺跡の発掘調査現場における弥生初期水田の考古学的データの収集及びデータベース作成を行い、分析試料採取及び分析作業を継続して実施した。さらに、水田面の高低差と畔の高さの空間変動から、当時の湛水特性を明らかにし、連続した小区画水田群での水田面の高低差の空間変動解析及び湛水実態の解明を進めた。 復元水田実験では、DNA型が古代品種に近いと想定される30品種・系統を選定し、平成29年年度に種籾増殖を目的として栽培した。平成30年度は、30品種・系統から選抜した7品種・系統を2作期で栽培し、窒素吸収動態モデル構築のためのデータを収集・解析した。なお、復元水田実験については、その成果を一般向けに公開するイベントを企画しており、収穫物の食味試験を実施した。 弥生時代に栽培されていた可能性が高い多様なイネ品種のDNA型を明らかにするとともに、将来的に中西遺跡ほかの発掘調査でイネ遺存体が出土した場合に備える。また、栽培試験と気象観測を継続し、弥生時代に栽培された品種を発育特性の面から検討した。さらにこれらの観測データをもとに生長特性や成長パラメータを検討することで、弥生時代における水稲の収量変動についても検討した。 耕作地である水田遺構の変遷と農具である遺物の変遷に相関関係が認められるのかを検証することを目的として、橿原考古学研究所所蔵図書の検索を通じて、弥生時代~古墳時代の水田関連遺構及び農耕関連遺物の集成を実施した。これまでに近畿地方及び近畿地方周辺にあたる東海・北陸地方の資料集成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに実施した秋津遺跡・中西遺跡の発掘調査における分析試料採取、採取した試料の整理及びデータ解析を進め、水田形態・規模などに関するデータベース作成は基本的に終了した。これをもとに、弥生時代前期の小区画水田を対象に、水田の管理で最重要な湛水に関連する水田の構造と湛水機能との関係の経時的変化と空間変動を農学的・考古学的視点から解析した。また、弥生時代のイネの生育と収量を推定するための窒素吸収動態モデルを構築するためのイネの生育特性データを収集・解析した。さらに、弥生時代の初期水田の環境パターンについて、植物遺体分析及び微遺体分析、粒度分析を行い、いくつかの遺跡で類例の分析を加えた。特に粒度分布の尖度及び突出から、灌漑のパターンと停滞のパターンを導き出した。 復元水田実験では、平成29年度に作付けした古代品種に近いと想定される30品種・系統のうち、平成30年度は7品種・系統を選定し、2作期で栽培した。熱帯ジャポニカ品種は過去2度にわたり日本列島に渡来したと考えられ、弥生期に渡来した可能性がある熱帯ジャポニカ品種と江戸期に渡来したそれとを区別するDNAマーカを開発した。これにより、将来イネ種子が出土した場合の品種群の同定を確実に行えるようになる。 復元圃場での栽培実験で得られた平成29年度の出穂日と平成30年度の出穂日の関係から、古代品種が2つのグループに分かれて現われ、出穂日が遅い品種が多いことが明らかになった。これらの古代品種が持つ発育パラメータを調べたところ、温度に関係するパラメータと日長に関係するパラメータの間に、一定の関係があることが分かった。 橿原考古学研究所所蔵図書の検索による資料集成は、対象となる近畿各府県のうち、滋賀県・京都府・奈良県・和歌山県のすべてと、大阪府・兵庫県の大半が終了した。
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Strategy for Future Research Activity |
中西遺跡第31次調査での分析試料採取及び解析については今後も継続する。また、連続した小区画水田群での水田面の高低差の空間変動 解析をすすめ、湛水実態の解明を進めるとともに、収集したイネの生育特性データの解析をすすめ、窒素吸収動態モデルを構築し、弥生時代のイネの生育と収量を推定する。弥生時代の初期水田の環境パターンのケーススタディとなる遺跡をさらに増加させつつ、環境読み取りの解析法を検討しパターン化をより明確にし、環境と灌漑など農耕技術を位置付ける。 復元水田実験においては、平成30年度に選定した品種を栽培する。栽培結果を報道関係を通じて広く公開し、収穫物を用いた試食イベントを企画する。これにあわせて、弥生時代における米の調整方法(精米の方法)の検討を合わせ行い、出土種子の調整の状態を明らかにすることを目指す。(出土種子が、もみのまま保存されたか、またはいわゆる「搗米」として保存されたかを明らかにする。) 栽培試験と気象観測を継続することで、弥生時代に栽培された品種を発育特性の面から検討する。さらにこれらの観測データをもとに生長特性や成長パラメータを検討することで、弥生時代における水稲の収量変動について検討する。播種日もしくは移植日を変えた圃場栽培実験を行う。今年度に得られる実験結果と、昨年までに得られた実験結果を組み合わせて解析することで、古代品種の発育パラメータをより明らかにすることを研究目的とする。さらに、これまでに得られた収穫量などの実験データをもとに、成長パラメータと収穫係数を明らかにするための検討を行う。 図書検索による資料集成については、近畿地方及び錦地周辺地域の集成を上半期を目途に終了させる。終了後、遺構としての水田の変化と、遺物としての農具の変化に相関関係が見られるかを検討する。。
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Research Products
(4 results)