2018 Fiscal Year Annual Research Report
水俣病事件の記憶術と（脱）アーカイヴ構築ー未来の人文社会科学的総合研究に向けて
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16H01970
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| Research Institution | Kumamoto University |
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Principal Investigator |
慶田 勝彦 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (10195620)
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| Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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| Keywords | 水俣病事件 / アーカイヴ / 水俣病研究会 / 岡本達明 / 記録と記憶 / 文化人類学 / 政治学 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本年度は＜水俣病＞事件の研究資源アーカイヴ構築および事件に関する図書刊行、そして今後の国際的研究展開に向けての模索を行い、以下のような成果をあげた。
第一に、岡本達明（元チッソ第一組合）の資料（第二回分：第一回同様にカセット約1000点とその書き起こし資料）を正式に熊本大学文書館（以下、文書館。研究代表者は文書館併任教員）に受け入れ、それらの電子化作業を実施するとともに目録作成を行った。さらに研究協力者の香室（文書館特任助教）が定期的に岡本と面談し、本資料に関する詳細な注釈作成作業に着手した。また、有馬澄雄（水俣病研究会）所蔵の資料（Y氏事件関係）整理を開始した。有馬の資料も順次文書館に寄贈され、公共性の高い資料として活用される。
いずれの資料も研究資料として貴重であるが、＜水俣病＞事件に造詣が深い資料提供者の岡本、有馬ならびに全体的な助言者である富樫貞夫との共同作業によるアーカイヴ構築は学術的かつ社会的に高い価値を有している（作業：富樫、有馬、慶田、香室）。また、水俣市の水俣病資料館との資料収集、整理、公開に関する作業体制も継続しており、定期的に情報交換しているのも本研究が地域的な連携を促進していることの証左のひとつである（作業：慶田、牧野、向井、佐藤）。
第二に、高峰武（水俣病研究会、熊本日日新聞社）の図書『8つのテーマで読む水俣病』（弦書房、2018年5月）を刊行した（作業：高峰、有馬、慶田、下田）。本書は刊行後主要な新聞で取り上げられ、社会的意義が高い著作として評価された。
最後に、研究代表者の慶田勝彦と研究協力者の伊藤洋典は＜水俣病＞事件に関する人類学、政治学的な国際研究拠点を学内（熊大）に形成することに尽力するとともに、グロ－バルな学術ネットワークの構築（本年度はUMass Bostonが中心）を推進した。以上のように、本年度の研究実績は十分良好である。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における目標は高めに設定しており、この設定をこえる成果をあげるのは厳しいが、研究全体としては交付申請時の計画（状況に応じて、研究成果を具体的な形にするための作業を重点化する方針含む）通りに、そして、ある領域においては当初の予想以上に進展している。
第一に、本研究には最終年度に限らず各年度に本科研メンバーによる図書刊行（1、2冊）を目標としているが、本年度（春）は高峰の図書を弦書房より刊行した。次年度には有馬・慶田・香室・佐藤・松永による資料集（Y氏事件関係）を刊行する目処が立っている。高めの目標設定にもかかわらず、計画通りに図書刊行を実施した点は評価できる。
第二に、＜水俣病＞研究資料のアーカイヴ構築に関しては、資料収集・整理（岡本達明、有馬澄雄の資料が中心）に関して、熊本大学（図書館・文書館・人社系研究部）の協力を継続的に得ることができたため、予想以上に進展している。資料の受け入れと整理に加えて目録作成が進んだ点、また、本研究課題が推進している＜水俣病＞事件関係資料のアーカイヴ構築の重要性が学内外で広く認知されはじめているのは予想以上の成果である。
第三に、本研究が取り組んでいる課題は国内だけではなく海外との研究連携を推進する必要があるとの認識が学内外で高くなっており、特に学内では地域性を有した国際的研究展開力を有する人文社会科学研究の重要な研究領域のひとつとして位置づけられた点は特筆しておきたい。水俣市水俣病資料館からの受託研究も2019年度までは継続することが決まっており、貴重な研究資料寄贈の新たな申し出、各種＜水俣病＞関連のイベントや研究会への案内も増加している。このような地域と連携した研究活動の推進には継続的に研究代表者の研究室（慶田研）の若手研究者が積極的に関与しており、地域の特色を活かした若手研究者育成の場として機能している点も特筆しておきたい。
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| Strategy for Future Research Activity |
本研究は、これまでと同様になんらかの形で＜水俣病＞研究資料に関わりながら、資料の収集・整理・公開といったアーカイヴ構築を行う一方で、＜水俣病＞事件を多元的に捉える自由な研究を促進し、既存のアーカイヴを脱構築することを目標としている。過去3年間は前者の作業が7割程度を占め、後者の作業が３割程度を占めている。残りの2年間は、両者ともに５割程度になるようにバランスをとりたい。
そのために、来年度は若手研究者を加えた資料集（Y氏事件関係）の刊行を予定している。過去3年間の作業経験から、人類学、社会学、政治学、そして歴史学を加えた本科研メンバーが自らの研究テーマならびにアプローチ方法を明確にしてゆくことが期待されている。ちなみに、研究代表者は国際的な研究への展開を視野に入れながら、人類学の文化批判の系譜に含まれるフランクフルト学派（ドイツ）、シュールレアリスム（フランス）、ドキュメンタリー映画（米国）との接点に＜水俣病＞事件を位置づけてゆく試みを開始する。この他、研究協力者の伊藤洋典（政治学）は石牟礼道子の人物ならびに作品を焦点化し、姜尚中、渡辺京二、伊藤ひろみなど熊本との関係が深い研究者や作家と学際的な共同研究会を組織する予定である。
この他、若手研究者を含む以下のような研究展開が期待される。現地調査を中心した民族誌的研究（下田健太郎）、写真・映像人類学的研究（香室結美、佐藤睦、松永由佳）、環境・地域社会学的研究（牧野厚史、向井良人）、近代日本研究（鈴木啓孝）などである。
また、各種研究資料をどこに、どのようなかたちでアーカイヴ化するのかは全国的な問題でもあるため、人類学との関連も深い国立民族学博物館との研究連携（吉田憲司・飯田卓との連携はすでにある）あるいはアイヌ関係の博物館等研究者（出利葉浩司との連携はすでにある）との連携をさらに強化してゆくことも重要な課題である。
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Research Products
(1 results)
