2017 Fiscal Year Annual Research Report
Learning by older adults: Cognitive control, emotion and motivation, and learning supports.
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16H02053
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
原田 悦子 筑波大学, 人間系, 教授 (90217498)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増本 康平 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (20402985)
和田 有史 立命館大学, 理工学部, 教授 (30366546)
榊 美知子 高知工科大学, 総合研究所, 客員准教授 (50748671)
須藤 智 静岡大学, 大学教育センター, 准教授 (90548108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 認知的加齢 / 認知的制御の過程 / 学習と学習支援 / 感情と動機づけ / 人ー人工物間相互作用 / 認知的人工物 / 好奇心 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究課題では,高齢者の学習について,認知的制御,感情,動機づけの視点からその機制の解明し,支援の可能性を検討することを目的としている.2年目は,「動機づけと認知的制御」班において,認知的熟慮性課題(Cognitive Reflection Test:CRT)を用いて加齢変化を検討したところ,若年成人とは異なる意味的関係性の効果を見出し,またキッチン等での新奇な人工物利用学習を観察検討したところ,日常的課題における熟達度が主体的な問題解決を可能にし,その結果,新奇な人工物との相互作用とその結果としての学習可能性を示した. 一方,「認知と感情の関係性分析」班では意思決定における認知バイアスと加齢変化の検討から,高齢者にのみ知識の存在が新たに付加された制御要因の発動を抑える可能性が見られ,上記CRT課題における意味的関係性,キッチン等での課題熟達度との関係性等について,統合的に検討を加えていく必要性が示唆された.また「感情制御の認知的機構の検討」班では,行動実験により(新奇な情報に対する)好奇心と学習の関係性を明らかにした.3班で共通して,知識あるいは意味的関連性と認知的制御の関係性を示しており,今後,統合的に検討をしていくことによる展開可能性が示されてきたといえよう. こうした認知的制御と感情・動機づけ要因との関係性の加齢変化を大規模データから明らかにしていくための予備的検討については,高齢者において,紙と鉛筆型課題として行ったAIST版認知的加齢と,そのWeb調査版と考えられたCFTIでは,結果が相当に異なることが明らかになり,また高齢者におけるコンピュータ操作の個人間差の問題も示されてきた.今後,「認知と感情の関係性分析」班で試験実施した若年から中高年成人を中心としたパネル調査結果の分析を共有しながら,大規模データによる研究実施可能性を検討していく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3班がそれぞれに行っている研究課題では成果が上がりつつあり,同時にそれらの間の共通性,相補性から今後実施すべき検討課題が明確になってきた.研究課題全体としては次なる大きな前進の可能性が見えてきている. 具体的には「動機づけと認知的制御」班においては,昨年度の成果を生かした認知的熟慮性課題(Cognitive Reflection Test:CRT)の検討から他の二班の成果と統合的に検討を行っていく研究テーマとして,知識あるいは意味的関連性が高齢者の認知的制御に与えている影響の重要性が明確化してきた.この問題は,人ー人工物間相互作用における熟達度が及ぼす影響とも関連しており,高齢者の日常的学習とその支援可能性の解明に向けて,新しい可能性が得られている. 同様に,「認知と感情の関係性分析」班での意思決定における認知バイアスと加齢変化の検討では,今後さらに認知的機能データを加えて分析を行っていくことの重要性が明らかになり,また「感情制御の認知的機構の検討」班では,好奇心と学習実験において,実験材料等の文化差,コホートの影響が見られたことから,加齢研究で扱うべき意味的関連性とは何かについて,有益な情報となってきている. 大規模データによる認知的制御と感情・動機づけ要因の関係性検討については,高齢者において,紙と鉛筆型課題として行ったAIST版認知的加齢と,そのWeb調査版であるCFTIでは,異なる測度を対象としている可能性があり,また高齢者におけるコンピュータ操作の問題,個人間差も明らかになってきたことから,当初計画の変更が求められている.そこで,「認知と感情の関係性分析」班で先駆的に実施した,若年から中高年成人を中心としたパネル調査の詳細分析に基づきながら,今後の大規模データによる加齢変化検討の方法について,明らかにして当初目的を達成する方法論を検討する.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの各班での研究成果を相互共有しつつ,焦点となりつつある「意味的関係性,知識,熟達度」などの要因と,好奇心・主体的問題解決・新奇情報による認知的制御との関係性について,さらに検討を深める.そのために特に,実験計画・課題等の実験材料・データ分析のレベルでの班間の共有,協働可能性を追求し,研究課題のさらなる明確化と深化を目指す. 加齢による認知的制御と感情・動機づけ要因との関係性を明らかにしていくための大規模データによる検討については,いわゆる高齢者(65歳以上)の定義にこだわらず,ネット調査の利点を生かした青年期~中高年層の連続的な年齢変化を中心に検討を行い,並行して高齢者を対象としたオン・サイトでの実験研究との連結可能性について,データ分析を深化させながら具体的に検討を進める. また,次の段階に取り組むべき研究課題のための「高齢者の新たな学習を規定する諸要因とその間の関係性」を,概念モデルとしてまとめる総合化を目指したい.そこに加えるべき主たる構成要素として,認知的熟慮性課題(Cognitive Reflection Test:CRT)にみられる加齢変化と意味的関係性,「日常的課題における熟達度」が主体的問題解決を介して新奇な人工物との相互作用とそこで発生する学習に与える影響,好奇心と新奇性に基づく主体的学習と加齢変化,認知的バイアス課題における日常的文脈や知識の効果,知識(意味記憶)が認知的制御に及ぼす影響とその加齢変化等である.これらをさらに詳細にアプローチしながら,本研究で追究する高齢者の認知学習モデルにおける全体の要因構造の中に,これらをどのように位置づけていくかを検討していく. これらの実験課題・実験材料の整備とモデルの共有が出来たところから,可能な範囲からの大型パネル調査あるいは神経科学的検討のための準備を始めていきたい.
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