2017 Fiscal Year Annual Research Report
固体表面と極薄水膜界面の原子レベル解析と反応過程の制御
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16H02076
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
新井 豊子 金沢大学, 数物科学系, 教授 (20250235)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 成朗 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40360862)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナノ水膜 / 水固体界面 / 周波数変調原子間力顕微鏡 / 走査型トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気圧下で湿度・ガス種・温度を制御した環境で動作する周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)/走査型トンネル顕微鏡(STM)を開発する。厚さ数 nmの水膜(ナノ水膜)で覆われた固体表面を制御して調製し、固体表面および水膜-固体界面の構造を原子分解能で観察・解析し、原子レベルの局所酸化・還元法の確立を目的としている。 1.FM-AFM/STMの開発:音叉型水晶振動子に力検出性能を落とさずに防湿処理を施す手法を確立した。防湿処理をした音叉型水晶振動子力センサーにサファイア小片を探針として取り付け、高湿度環境で、ナノ水膜が形成したKBr(100)表面の原子分解能観察に成功した。 2.固体表面上の水膜内の固液界面構造・ナノ水膜内の特性の解明:親水性有機分子を分散させた水溶液を劈開したマイカ基板に展開し、FM-AFM試料フォルダーにセットする。環境湿度を80%まで上げ、マイカ基板上に数nm厚のナノ水膜を残した試料を準備した。水膜の外から微弱な引力で、有機分子の概形形状を観察できた。次に、水膜内部に探針先端を浸すことで、有機分子および、界面の水分子のの高分解能観察を試みた。しかし、試料の有機分子は非常に壊れやすく、高分解能観察条件を見いだせていない。 3.原子間力顕微鏡探針に働く相互作用力の長距離成分(ファンデルワールス力)の効果を、超高真空中、大気中、水中で数値的・理論的に比較した。長距離力を、試料表面からの探針高さの関数としてプロットしたところ、探針高さ1.0 nm近傍では大気中のメニスカス力が最大値を示す一方、水中では引力が抑えられることが確認出来た。曲率数十nmの探針の場合、空気中では、z=0.2 nm程度で10nNオーダーの引力を示し、AFMの凝着測定で得られるpull-off力のオーダーと良く一致する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温度・湿度制御環境(100%に近い高湿度環境を含む)で動作する周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)/走査型トンネル顕微鏡(STM)を完成させた。除振性能を向上させ、高湿度環境に置かれた電子回路に防湿処理を施し、S/Nを向上させたことで、ナノ水膜が形成したKBr(100)表面の原子分解能観察に成功した。この過程で、力センサーに用いる音叉型水晶振動子に防湿処理を施す手法を確立した。防湿処理した音叉型水晶振動子力センサーは、大気中でもQ値が数千を維持する。劈開直後のマイカ(100)表面と、劈開後に水洗浄を行ったマイカ(100)表面を比較し、ナノ水膜/マイカ基板界面構造の詳細を明らかにした。親水性有機分子および水素結合している水分子の高分解能観察条件を絞り込んでいる。 AFMシミュレータを開発し、水のマクロな効果を評価したことで、次に水のミクロな効果を評価する準備ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.開発装置の高機能化:開発したFM-AFM(サファイア探針)を用いて、KBr(100)面の原子分解能観察を達成した。今年度は、現制御システムに、もう1台フェーズロックロープ(PLL)を追加し、1次共振、2次共振周波数を同時に変調できるシステムに拡張し、大きな(数十ナノメータ)構造の中の原子レベルの構造を観察可能にする。 2.固体表面上の水膜内の固液界面構造、ナノ水膜の特性の解明:温湿度を制御して試料表面の水膜厚さを制御し、固体表面構造の解析を進める。マイカ基板上に親水性有機分子を吸着させるる基板として、マイカ基板を用いたが、吸着力が弱く、高分解能画像の取得が難しかったため、マイカ基板上に脂質二重膜/マイカ基板を検討する。次に、表面酸化Si基板の水膜内での変化を原子レベルで観察する。大気から吸着した水分子のみで形成されたナノ水膜内では変化が無い場合、微量の金属イオンを導入し、その付近での腐食過程を解析する。 3.Si基板の一原子レベル局所酸化/還元技術への挑戦:導電性探針を用いて、電圧パルスを印加することで、一原子レベルの局所酸化/還元反応法の確立をめざす。 4.ナノ水膜の分子力学・分離動力学シミュレーション:H29年度に引き続き、静的接触モードおよび動的モード原子間力顕微鏡における探針-試料表面系の構造最適化シミュレータの構築を進める。ナノカーボン基板表面に吸着した数~数十分子の水分子層の配列構造を古典分子力学法で再現し、そこに探針を近付けた時、基板上の水分子層構造がどのように崩れ、また架橋構造を形成するのかを計算する。これらの結果を連続体の液滴模型と比較し、原子スケール水分子膜の特徴の解明を目指す。
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Research Products
(31 results)