2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02118
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
米田 仁紀 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (00210790)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 光 京都大学, 理学研究科, 助教 (60335297)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | X線レーザー / ハードX線フォトニクス / 内殻電子励起レーザー / EXAFS |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、X線自由電子レーザーSACLAの、1e20W/cm2を超える強集光性と、他の施設ではできない超高強度X線場を利用した研究を通して、可視~近赤外で行われている光波・光子による物質制御や、それを利用したフォトニクス研究が可能になる事例を、ハードX線領域でも実現してきた。 物質と光との相互作用が小さくなるX線領域では、屈折率も実部が1に虚部が0に限りなく近づくため、大きな相互作用を生み出せない。そのため、線形な制御光学はもとより光波を利用してのコヒーレント制御は難しく、特にハードX線においてはさらに困難であると考えられてきた。しかし、我々は、これまでのX線自由電子レーザーSACLAを使った研究で、XFEL励起Kαレーザーを生成させて時間コヒーレンスを高め強度を上げていくことで、ハードX線による原子系のコヒーレント制御やハードX線自体のスペクトル、パルス波形制御ができることを明確に示した。 平成28年度の研究では、ハードX線でのコヒーレントフォトニクスを行って、そこで得られる特徴的なX線を使った応用研究までを開拓することであった。この研究が実現すれば、ハードX線の分野で自由にスペクトル、パルス波形を制御した光を作ることができ、さらにそれらを利用して新しいポンププローブ計測などの応用研究や原子の深い準位を使った物質制御を行うことができる。 具体的に行った研究は、(1)結晶格子のBragg回折を用いた狭窄化レーザーの実証 (2)表面構造化ターゲットを用いたマルチパルス発生実験(3)非線形EXAFS実験、となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況として、上述の(1)~(3)について、以下のようなものが挙げられる。(1)結晶格子のBragg回折を用いた狭窄化レーザーの実証:ショットごとにまだばらつきがあるものの、最小発振線幅1.6eVの狭窄化Kαレーザーに成功した。この幅は、Kαの自然幅を超え、さらに我々が行った2色化XFELによるSASE光シード化X線レーザーによるスペクトル狭窄に匹敵する高いコヒーレントX線光になっている。このX線レーザーの鍵は、単結晶性に優れ、結晶面方向が最適な薄膜ターゲットを準備しアライメントできることと、高強度励起すぎて他の要因でスペクトルの広帯域化が起きないような励起分布調整を行うことにあった。我々は、この後者のために、隣接した発光原子間距離が保たれるCuSO4・5H2O試料を選択し、この大型結晶を育成して方位に合わせて50μm程度まで薄膜化する技術を開発した。 (2)表面構造化ターゲットを用いたマルチパルス発生実験:超短パルスレーザーの波長を非線形光学結晶により3倍波にし、その照射によってできる微細構造化ターゲットを製作した。また、これを用いた2色X線自由電子レーザーによる励起では、最大6fsの時間差のダブルパルスの発生に成功した。 (3)非線形EXAFS実験 X線自由電子レーザーSACLAのSASE光を利用したCoの透過スペクトルの強度依存性が観測された。特に透過率変化がスペクトルによって異なるだけでなく、位相がスペクトルにより変化していることが確かめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのデータをもとに、ハードX線を自由にコヒーレント制御できるフォトニクスとしてこのビジョンを多くの国際会議で紹介しているが、多くの研究者がその可能性を認めてくれるようになった。したがって、今後も、得られたX線や物質の制御手法が他分野で活かされるように研究展開を行うべきだと考えている。最近、物性研究者のグループから講演を頼まれて議論した際、より外側の電子を使った制御という可能性と研究の必要性を問いかけられた。これまで物性研究が最外殻の電子軌道を制御する方法で多くの機能を生み出してきたことを鑑みて、ハードX線も今回の提案のように最内殻と最外殻を結び付ける存在としても重要であると考え、f-b遷移やKβ線レーザーの実験を準備している。 特に、現在のターゲットとなっている原子は遷移金属であることを考えると、スピンを含め様々な制御が外側電子で可能なものであり、これらの物性物理でのアイデアとハードX線レーザーが組み合わされば、わが国として非常に強く、特異な研究体制を構築できると考えている。
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Research Products
(5 results)