2017 Fiscal Year Annual Research Report
初期世代星の大規模分光観測による初代星の質量分布と銀河形成へのインパクトの解明
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16H02168
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
青木 和光 国立天文台, TMT推進室, 准教授 (20321581)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤本 正行 北海学園大学, 工学部, 客員研究員 (00111708)
冨永 望 甲南大学, 理工学部, 教授 (00550279)
野本 憲一 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 上級科学研究員 (90110676)
小笹 隆司 北海道大学, 理学研究院, 特任教授 (90263368)
須田 拓馬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (90374735)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金属欠乏星 / 超新星 / 化学進化 / ダスト / 銀河系 |
Outline of Annual Research Achievements |
LAMOSTによる探査で検出された金属欠乏星候補天体をすばる望遠鏡HDSで分光観測するプログラムを2年間にわたって実施し、当初の目標に近い約400天体のデータを取得することに成功した。全般的なデータ解析のなかで、リチウム過剰天体や炭素過剰天体、矮小銀河起源と思われる天体などについて集中的に解析を行って成果をとりまとめた。 金属欠乏星データベースについては、昨年度公開した矮小銀河の星に加え、銀河系の星についても大幅な拡張を行い、データベースの概要および矮小銀河と銀河系の星の比較から得られる知見をとりまとめた。 初代星形成に関しては、低質量星が始原的なガス雲から形成されたとしても、後の星間物質の降着により金属を含む星として観測されるという仮説があるが、低質量星からの輻射および星風を初めて考慮したモデル計算により、降着は阻害され金属を含まない星として観測される可能性を示した。 観測で多数見つかっている炭素過剰を示す金属欠乏星は炭素・鉄組成でグループに分けられるが、その違いは低質量星形成時のガスの冷却に重要なダストの種類が異なることが原因であり、炭素組成に応じて炭素ダストとシリケイトダストがそれぞれ重要であることを提案した。これは起源となる超新星の違いに対応すると考えられる。また、低金属量下でのs-過程のモデル計算と炭素過剰星の組成の比較により、AGB星におけるs-過程の星質量および金属量依存性を明らかにした。それにもとづいて炭素過剰星のs-過程元素組成の多様性と炭素過剰との相関が生じる要因を同定した。 脈動を示すAGB星におけるダスト駆動星風の動力学計算によって得られたガスおよびダスト質量放出量率を定式化し、それを組み込んだ非常に低い金属量における恒星進化計算を試験的に行い、AGB段階で形成されるダスト量はダスト駆動星風が起こる前段階での質量放出と関係していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属欠乏星の大規模分光観測については、すばる望遠鏡による高分散分光観測を2年間にわたって実施し、ほぼ目標どおりにデータを取得した。リチウム過剰を示す星についての成果を論文公表するとともに、特徴的な運動学的特徴をもつ一群の星の化学組成の測定による研究成果などが得られ、論文執筆が進んでいる。サンプル全体を用いる統計的な研究のためのデータ解析も進んでおり、2018年4月に公表されるガイア衛星による位置天文情報をとりこんで星の運動を確定する準備も開始した。 金属欠乏星のデータベースについては、矮小銀河の星への拡張とそれに合わせた銀河系の星のサンプルの大幅な拡張を行い、研究成果を論文として公表した。 理論研究では、約200個の金属欠乏星に見られる化学組成のパターンをいくつかの質量と爆発エネルギーの超新星/極超新星が生成する元素組成のパターンと比較し、13-40太陽質量の範囲の星の爆発で説明することができることを示した。100 太陽質量というような大質量の星の寄与は少ない。この結果は初代星の質量関数が13-40太陽の範囲にピークを持つことを示唆するもので、結果は論文公表決定済みである。 炭素過剰星については、中性子捕獲元素の分布に4桁に及ぶ多様性がみられるのが特徴であり、起源となるs-過程が、AGB星の質量の違いによってもたらされる可能性をモデル計算で示した。炭素過剰星はAGB星を含む連星系で形成されるとすると、組成の多様性は主星質量と連星軌道周期に起因すると解釈できることを示した。さらに、観測からは主星が金属量の増加とともに中質量から低質量に移行する傾向があると考えられる。これらの結果について研究成果のとりまとめを進めている。 AGB星からの質量放出については、宇宙初期で形成された低金属・低中質量星のAGB段階でのダスト形成量と形成されるダストの平均サイズを見積もる手法が確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
金属欠乏星の大規模分光観測については、これまでに成果が得られつつある研究課題について成果をとりまとめるとともに、300天体以上の金属欠乏星の化学組成の測定を完了し、ガイア衛星による位置天文情報から得られる銀河系内の運動学的特徴と組み合わせて、金属欠乏星形成と初期の銀河系形成との関連を明らかにする研究を推進する。さらに、新たに浮上した疑問を解明するために提案している追跡観測を推進する。金属欠乏星データベースの充実をはかるとともに、それを活用した研究を推進する。 理論研究においては、金属欠乏星の元素組成を説明するためには非球対称な超新星爆発が必要であることが明らかになってきたことから、非球対称超新星爆発によって放出される元素組成の空間分布を宇宙論的金属欠乏星形成シミュレーションに取り入れ、どのような元素組成の金属欠乏星が形成されるのかを調べる。また、最近になって発見され始めた超高輝度超新星は、通常の重力崩壊型超新星の10-500 倍という明るさを示しており、巨大質量星の爆発が示唆されている。その母銀河のほとんどが低金属量の矮小銀河であることから、初代星と関係がある可能性もある。超高輝度超新星の爆発機構や親星の質量範囲は依然として未解決なので、光度曲線などのモデルからこれらを特定し、その元素合成の特徴を明らかにする研究を推進する。 中小質量星については、与えられた初期質量関数のもとで、低金属星がAGB段階で放出するダスト量を恒星進化モデルにもとづいて求め、高赤方偏移銀河でのダスト供給源としてAGB星の寄与を明らかにする。また炭素過剰星の形成については、これまでの銀河系ハロー天体の研究をふまえて矮小銀河における炭素過剰星の形成機構や星・連星系の形成史の解明を試みる。扱う連星系の星の質量範囲を広げ、r-過程元素を含めた銀河系ハローの化学進化や星の初期質量関数の導出を視野に入れ取り組む。
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