2016 Fiscal Year Annual Research Report
カチオン配列制御・酸素配位構造制御による新規機能性遷移金属酸化物の創製
Project/Area Number |
16H02266
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅 大介 京都大学, 化学研究所, 准教授 (40378881)
齊藤 高志 京都大学, 化学研究所, 助教 (40378857)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イオン結晶 / 電子・電気材料 / 複合材料・物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、遷移金属酸化物に焦点をあて、通常では得ることのできない非平衡準安定な物質までを含めた人工酸化物を、カチオン配列制御と酸素配位構造制御という2 つの観点から創製している。特に、高圧合成、原子層薄膜作製、さらには低温トポタクティック物質変換を加えたユニークな固体化学的合成手法を駆使して新物質を探索した。 その結果、高圧合成とトポタックティック物質変換により、異常原子価状態遷移金属イオンを含んだLaCa2Fe(3.67+)3O9やCa0.5Bi0.5Fe(3.5+)O3の合成に初めて成功するとともに、この両者が非常に興味深い電荷転移を起こすことを明らかにした。LaCa2Fe(3.67+)3O9では、層状構造によるAサイトのポテンシャルの影響を受け、電荷不均化の秩序において2次元および3次元的な2つの配列パターンが現れる。また、Ca0.5Bi0.5Fe(3.5+)O3は電荷不均化とサイト間電荷移動の逐次的な相転移を示す初めての物質である。さらに、この物質の異常高原子価Feイオンは電荷不均化した状態において、アイドルスピンを有する極めて特異な磁気構造が現れることも見い出した。 パルスレーザー蒸着法を用いて、反射高速電子回折(RHEED)強度をモニターしながら原子層単位で成長を制御したエピタキシャル薄膜では、基板材料との格子ミスマッチを利用した歪みを界面に導入することにより、強磁性金属であるSrRuO3の磁気特性を制御できることを明らかにした。放射光X線による詳細な結晶構造解析や磁気円二色性の測定から、界面での酸素八面体におけるRuイオン周りの酸素配位構造のわずかな変化により、異常ホール効果をはじめとする磁気輸送特性の変化が引き起こされていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高圧法による新物質合成では、LaCa2Fe3O9などのAサイトのカチオンが層状秩序配列した化合物に加えて、合成温度条件を変えることでAサイトカチオンが無秩序となったものを合成することもできた。これは合成条件を最適化することで、カチオンの秩序・無秩序配列を制御できることを示している。カチオン秩序度は、高分解能の放射光X線や中性子回折実験による精密な結晶構造解析から明らかにできるようになっている。また、中性子による磁気構造解析から磁気モーメントの大きさの精密化を併用することで、電荷秩序の議論もできることが実証できた。1年目として想定していた研究課題は十分に達成できており、合成した新物質の示す電荷転移の詳細や磁気構造解析までも明らかにすることができた。 酸素配位構造に着目した遷移金属酸化物薄膜の作成では、RHEED強度をモニターしながらの成膜により、原子層単位での成長制御が実現できており、その構造は高分解能電子顕微鏡による観察で確認することで原子の乱れや欠陥のない急峻な界面構造ができていることが確認できた。また、HAADF法とABF法を併用した観察で、軽元素である酸素原子の可視化が可能となったことで、遷移金属イオンの作る八面体における酸素配位環境をサブピコメートルオーダーの精度で明らかにすることができた。これにより、遷移金属‐酸素の結合距離や結合角度とその変化を原子層単位で調べることが可能となった。今年度は、特に放射光X線による構造解析が酸素配位構造に関して相補的な結果を与えることを示すことも出来た。電子顕微鏡観察とX線回折による結晶構造解析から、薄膜界面構造と物性との相関を多角的に検討することが可能であることが実証でき、こちらも研究初年度の目標を十分到達するレベルの結果が得られていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
高圧合成を中心とする新物質創製では、当初の予定通り引き続きぺロブスカイト構造酸化物におけるカチオン秩序配列を対象に新物質探索を進める。高圧合成法を駆使することで、これまでの3d遷移金属イオンに加えて4dや5d遷移金属イオンにも注目し、高い原子番号イオンの新規な異常原子価状態を見つけ出すと共に、それらの電子状態を明らかにし、異常原子価状態が引き起こす新奇物性を探求する。一連の研究により、3d~5d遷移金属イオンを含んだ酸化物の構造安定性、各遷移金属イオンの原子価安定領域の確立を目指す。さらに発展的課題として、ペロブスカイト類縁層状構造化合物群であるDion-Jacobson型構造(A’An-1BnO3n+1)、Ruddlesden-Popper型構造(A’2An-1BnO3n+1)も対象とする。これらの物質では、カチオンの秩序配列が層状構造と相関する可能性があり、低温トポタクティックな物質変換を施すことで、異常原子価イオンの配列次元性の制御の可能性を大きく広げることができるようになると考えられる。 遷移金属酸化物薄膜に関する研究では、界面での酸素配位構造に着目する。基板格子とのミスマッチを利用することで界面での酸素配位環境が制御できることを実証してきたが、酸素欠損を含んだ配位多面体とペロブスカイト格子との界面整合では、大きな構造緩和が必要となる。そこで、酸素欠損を含んだペロブスカイトと酸素サイトが全て埋まったペロブスカイトのヘテロ構造界面を作成することで、酸素配位環境の変化を探るとともに、界面での特異な物性変化につながる可能性を検討する。 界面構造評価では、引き続き高分解能電子顕微鏡観察に加えて放射光X線回折も用い、ミクロスコピックとマクロスコピックの両観点からの評価を進める。
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