2018 Fiscal Year Annual Research Report
カチオン配列制御・酸素配位構造制御による新規機能性遷移金属酸化物の創製
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16H02266
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅 大介 京都大学, 化学研究所, 准教授 (40378881)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遷移金属酸化物 / イオン結晶 / 電子・電気材料 / 複合材料・物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、遷移金属酸化物に焦点をあて、通常では得ることのできない非平衡準安定な物質相までを含めて、カチオン配列制御と酸素配位構造制御という2つの観点から新物質創製を試みている。特に、高圧合成、原子層薄膜作製、さらには低温トポタクティック物質変換を加えたユニークな固体化学的合成手法を駆使して新物質とそこで現れる特性に関して、構造変化との相関から検討した。 Aサイトのカチオンが秩序配列したYBaCo2O5をオゾンを用いて低温でトポタクティックに酸化することで、異常原子価状態Co3.5+イオンを含んだYBaCo2O6を合成することに成功した。YBaCo2O5中ではCo2.5+イオンは酸素が5配位したピラミッド構造であったが、トポタクティックな酸化により酸素6配位八面体構造のCo3.5+へと変化した。この系ではスピン系と格子系との強い相互作用により、140 Kにおいて結晶構造の歪みを伴いCo3.5+が中間スピン状態の強磁性となる。さらに興味深い点は、比較的電子相関が強いにも関わらず系が金属的な伝導特性を示すことである。このような中間スピン状態を有するCoの強磁性金属酸化物は非常に珍しい。 原子層単位で成長を制御したエピタキシャル薄膜では、ブラウンミレライト構造SrFeO2.5を作製し、これを空気中でアニールすることにより、酸素が取り込まれる過程を原子間力顕微鏡(AFM)の導電性からナノスケールレベルで観察することに初めて成功した。原子レベルでのステップ構造を持つSrFeO2.5では、その端点から酸素が取り込まれ、その後テラス構造の膜面を拡散していくことが明らかとなった。このような酸素イオンの拡散挙動過程をナノスケールレベルで解明したのは初めての例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高圧法やトポタクティック物質変換による物質合成では、いくつかの興味深い物性を示す新物質を合成することに成功している。さらに、これまで得られた化合物の多くは単純ペロブスカイト構造酸化物であったが、例えば、12R型Ba4Fe3NiO12など六方晶構造の新物質の合成にも成功している。これらの物質では頂点酸素による遷移金属-酸素八面体構造の連結に加えて、面共有した酸素八面体の連結を基盤とする結晶構造物質を有することが大きな特徴であり、酸素配位構造を基本とする結合様式の違いによる磁性や電気伝導特性との相関が議論できるようになってきた。 一方、研究当初から結晶構造・磁気構造の解析に注力してきたが、実験室でのX線回折実験に加えて、高分解能の放射光X線や中性子を用いた回折実験を国内外の大型量子ビーム実験施設と連携して進めてきた。いくつかの研究プロポーザルの申請と採択により、国際共同研究実験での成果も挙がってきている。新たにJ-PARCでの中性子回折実験についても打ち合わせが進行しており、より多くのビームラインを使った幅広い共同研究体制の構築も進んできた。 エピタキシャル薄膜の作成では、これまで主としてパルスレーザーを用いた蒸着法により作成して生きたが、新たにミストCVD法による成膜を取り入れた。これにより、より高範囲の膜厚の制御が容易にできるばかりでなく、比較的低温での成膜により、蒸着法で得られる構造とは異なる酸素配位構造制御ができるようになってきている。ミストCVDで作成した薄膜でも、放射光X線による構造解析により、高品質な薄膜の作成を確認できており、薄膜構造と物性との相関を多角的に検討することができるようになってきた。 本研究課題での最終年度での計画を進める上でも、多角的な合成手法と評価手法が揃ってきており、全体として順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向けて、引き続きぺロブスカイト関連構造酸化物を中心としたカチオン秩序配列や酸素配位構造に注目した新物質創製を高圧合成やトポタクティック物質変換を駆使して展開する。また、カチオンの異常原子価状態とその電子的な不安定性に起因する相転移に注目し、転移に伴う構造や電子・磁気物性の変化から構造-物性相関を明らかにしていく。新物質探索としては、異常原子価状態のカチオンを含んだペロブスカイト類縁層状構造化合物群であるRuddlesden-Popper型構造酸化物(A'2An-1BnO3n+1)にも注力する。この構造では、積層層状構造の位相がずれることで、相互作用に大きな異方性が現れる。異常原子価状態カチオンに起因する相転移における異方性の影響を明らかにし、物性の次元性との相関も明らかにする。 遷移金属酸化物薄膜の作製に関しては、パルスレーザー蒸着法とミストCVD法を相補的に用いることで、さまざまな膜厚や結晶性を有する高品質なエピタキシャル薄膜を用いた物性評価を酸素配位構造に着目して展開する。特に、酸素配位構造制御では、これまでに基板からのエピタキシャル成長を利用した歪み制御に注目してきたが、最終年度では、この歪みの影響を高圧法などで合成したバルク材料での歪み効果との比較を視野に入れる。 構造評価研究では、これまでの放射光X線回折、中性子回折、高分解能電子顕微鏡観察を使った原子レベルの結晶構造解析を進めるが、特にJ-PARCでの高強度高分解能の回折データを用いた結晶構造および磁気構造解析に取り組む。最終年度では、当初の計画通り、バルク材料と薄膜材料を併せた原子価制御と酸素配位構造制御による構造物性に関する新たな知見を得ることを目指す。
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Research Products
(30 results)
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[Journal Article] Structure-property relations in Ag-Bi-I compounds: potential Pb-free absorbers in solar cells2019
Author(s)
A. Koedtruad, M. Goto, M. Amano Patino, Z. Tan, H. Guo, T. Nakamura, T. Handa, W. -T. Chen, Y. -C. Chuang, H. -S. Sheu, T. Saito, D. Kan, Y. Kanemitsu, A. Wakamiya, and Y. Shimakawa
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Journal Title
J. Mater. Chem. A
Volume: 7
Pages: 5583-5588
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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