2018 Fiscal Year Annual Research Report
完全抗体をスーパー抗体酵素に変える革新的技術の開発
Project/Area Number |
16H02282
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
一二三 恵美 大分大学, 全学研究推進機構, 教授 (90254606)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 龍一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (50240833)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 抗体酵素 / X線結晶構造解析 / 抗体 / 酵素活性 / 構造多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初は「抗体を抗体酵素化する」という目標を達成するために、抗体酵素の活性サイトの構造決定をすすめ、得られた知見を元に「抗体の抗体酵素化」を進める計画であった。しかしながら、抗体タンパクの構造多様性問題の解決が必須であることが明らかとなり、精製過程で構造均一化処理を施す方法と、抗体工学的手法の2つの柱で検討を進めてきた。 (1)精製過程で構造均一化処理を施す方法①構造安定化と酵素活性:昨年までに見出した構造均一化処理を施すと、精製方法によらず抗体軽鎖構造の均一化が可能であることが分かった。しかしながら、精製方法によって酵素活性に違いが認められたことから、精製の最適化を進めた。②抗体軽鎖の酵素化:上記検討により、軽鎖クローンの特徴を明確に捉えることが可能となった。構造に寄与すると考えられる1残基の違いが酵素活性の有無に繋がる例を見出したことから、酵素活性を示さないクローンに対してこの変異を導入した。この変異導入により、本クローンは酵素活性を示し、本課題の目標であった抗体の酵素化に成功した。 (2)抗体工学的手法による構造均一化:構造多様性の原因となるFc領域をヘリックス構造に置き換えたコンストラクトを作製し、大量発現・精製・結晶化条件の検討を進めて2クローンのX線結晶構造の決定に成功した。一つは基本ユニットをホモダイマー化させたもので、2.6オングストローム分解能を得た。その構造は挿入したヘリックス構造を欠く極めて特徴的な4量体であった。他方は「軽鎖」と「結晶化用モデル用の重鎖」とをヘテロダイマー化したものである。 (3)免疫複合体としての結晶化と構造決定:本項目については共結晶化が出来ていない。この原因は軽鎖クローンと抗原や基質との親和性が低く、共結晶化に十分な濃度を与えることが出来ない点にあると考えられた。現在、親和性を元にクローンの再選定を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載したように、軽鎖タンパクの構造多様性は想定を上回ったことから、結晶化のための技術的なアプローチを進めると同時に、構造多様性を与える本質的な要因を追求し、Fcドメインが原因であることを明らかにした。これは、免疫機構における抗体の役割を考える上では非常に興味深い知見であるが、構造決定においては根本的な問題である。Fcドメインを外した可変領域ドメイン単独では疎水性が強く、精製・結晶化は困難であった。 そこで、Fcドメインを他の形に置き換えることを目的とした抗体工学的手法による結晶化の検討を進めると同時に、Fcドメインの構造多様化を防いで構造を均一化させる方法の検討を行った。後者においては、昨年度までに構造均一化法を確立したが、最も重要な点は、「酵素活性を発揮する構造への均一化」であることから、精製方法の違いによる影響を精査し、最適化を行った。これにより個々のクローン特性が明確になると同時に、高い機能を引き出すことが出来た。また、酵素活性サイトの構築には関与していないと推定される1残基の違いが酵素活性の有無に反映される重要な知見を得た。この知見を元にした変異導入により、本課題の目的である「抗体軽鎖の酵素化」に成功した。 一方、結晶化が困難なため、構造学的な視点によるメカニズムの解析は遅れている。本目標を達成するためには、基質(抗原・阻害剤)との複合体としての結晶化が必要であるが、現在までのところ成功していない。軽鎖タンパクと基質(抗原・阻害剤)との親和性にあることが分かってきた。そこで、基質(抗原)の用意が可能なクローンについて速度論的な解析や親和性測定を進め、共結晶化を行うクローンの再選定に着手している。 以上のように、抗体の酵素化には成功したものの、構造ベースのアプローチがやや遅れていることから、課題全体としては「おおむね計画通りに進行している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)アミノ酸配列と酵素活性の関係:今年度成功した抗体を酵素化するための1残基変異を複数の軽鎖クローンに対して試す。このアミノ酸残基は、酵素活性サイトを構築するものではなく、構造に関与すると推定され、従来着目していたものとは異なるsubgroupについても適用出来る可能製が示唆された。そこで、ヒト型においてはsubgroupの範囲を広げて、適用範囲を調べる。また、本課題で酵素化を目指しているInfA15抗体(マウス型モノクローナル抗体)は、今年度酵素化に成功したヒト型軽鎖の相同性が高く、この1残基変異により酵素化出来る可能製が高いことから、変異体作製と酵素活性評価を行う。これらの検討により、この方法が適用できる軽鎖クローンの範囲を明確化する。 (2)X線結晶構造解析による基質認識および酵素活性分子機構の解明:免疫複合体(あるいは基質複合体)としての構造解析においては、軽鎖との親和性が高いクローンの選択が重要であることが明らかになった。最適化した精製方法によるスクリーニングで見出したクローンの一つが、一般的な軽鎖クローンよりも1~2桁強い親和性を持つことが分かったことから、このクローンを使った基質複合体の結晶化を優先的に進める。また、他のクローンについても、抗原や基質に対する親和性を調べ、その結果をもとに優先順位を決めて免疫複合体の結晶化と構造決定を進める。 (3)各種クローンのin vitro活性試験:酵素化した軽鎖クローンや、抗体工学的手法による改変により構造を決定したクローンについて、がん細胞傷害性試験やインフルエンザウイルスに対する感性抑制試験などを行い、機能を定量的に評価する。
|
Research Products
(18 results)