2016 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of Dimensional Code in Central Dogma based on Polymorphic Nucleic Acid Structures
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16H02283
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (90550236)
高橋 俊太郎 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (40456257)
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (20593495)
藤井 大雅 甲南大学, 先端生命工学研究所, 助教 (40735338)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 核酸化学 / 非二重らせん / 分子クラウディング / 化学環境 / 分子間相互作用 / 安定化エネルギー / セントラルドグマ / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、共存溶質による分子クラウディング環境、pH、イオン濃度などの化学環境の変化がもたらす非標準構造の安定化エネルギーへの影響を定量的に「得る」研究を中心に進めた。以下に成果の一例を示す。 代謝産物などに代表される分子イオンが共存する溶液環境で、二重鎖構造と非標準核酸構造(四重鎖構造、RNA高次構造など)の安定性を定量的に解析した(Biophys. J., 111, 1350 (2016))。四重鎖構造については、人工塩基を用いてそのトポロジーを固定し、イオンの違いによる熱安定性への影響を詳細に解析した(J. Inorg. Biochem., 166, 190 (2017))。三重鎖構造を形成するペプチド核酸を用いた研究では、pHの変化によるエネルギーパラメータへの影響を明らかにした(Phys. Chem. Chem. Phys., 18, 32002 (2016))。これらの研究成果は、非標準核酸構造の制御を目的とした人工分子を「生む」研究に活用するためのデータベースとなる。 化学環境変化に加え、ガン細胞内での発現量が増大するtRNAによる非標準核酸構造の変化を解析した。その結果、tRNAが新生RNAに相互作用することで、四重鎖構造の形成が有意に減少し、mRNAからの遺伝子発現量が上昇することを明らかにした(Angew. Chemie. Int. Ed., 46, 14315 (2016))。 人工核酸を用いて生体反応を制御する研究にも着手した。標的となる核酸領域に分子間で四重鎖構造を形成する人工核酸を設計し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のRNA上に四重鎖構造を形成させた。その結果、RNAの逆転写反応を阻害することに成功した(ChemBioChem., 17, 1399 (2016))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、1.非標準構造の安定性や形成速度を、核酸構造のエネルギーパラメータとして「得る」。2.エネルギーパラメータに基づき、非標準構造の安定性を調節する分子を「生む」。3.合成した分子を用いて、細胞内での遺伝子の発現制御が可能であることを「示す」。 以上の3つの研究を段階的に遂行し、核酸の非標準構造により摂動されるセントラルドグマの新たな調節機構を明らかにすると共に、人工分子による遺伝子の発現制御システムを構築することを目的としている。 初年度となる本年度は、化学環境の変化がもたらす非標準構造への影響を定量的に「得る」研究を中心に進め、共存溶質、pH、イオン濃度などの化学環境の変化がもたらす非標準構造の安定化エネルギーおよび構造形成速度への寄与を分光学的な測定装置(紫外可視吸光度測定装置、円二色性測定装置など)を用いて解析し、多数の研究成果を報告した。加えて、遺伝子の発現過程で形成される非標準構造の動的な変化を解析し、癌細胞内での発現量が増大するtRNAが、転写反応に伴う四重鎖構造の形成に影響することを明らかにした。この成果は、化学分野を代表する国際学術誌である、独国化学会のAngewandte Chemie International Edition誌に掲載され、掲載号の中裏表紙に取り上げられた。さらに、テトラエチレングリコールで修飾した塩基を有する人工核酸を設計・合成し、標的のRNAと分子間で四重鎖構造を形成させることで、ウイルスの増殖に欠かせない逆転写反応を効率的に阻害することに成功した。この成果も、独国化学会のChemBioChem誌の表紙に取り上げられ、国内の新聞などでも報道された。このように、本研究課題では初年度から学術的、社会的に価値の高い研究成果を発表することができており、当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に従い、平成28年度(本年度)での「得る」研究による化学環境の変化に応じた非標準核酸構造の応答に関する基礎的な知見に基づき、分子間の相互作用で非標準核酸構造の熱安定性や構造形成速度を調節できる人工分子を「生む」研究を進める。さらに、合成した人工分子を用いて遺伝子の発現を制御できることを「示す」研究に着手する。 人工分子を「生む」研究としては、四重鎖構造に結合することが知られている既存の化合物の骨格に、種々の化学基を追加修飾した化合物を合成する。合成した化合物と四重鎖構造との相互作用を、分光学的な測定装置(紫外可視吸光度測定装置、円二色性測定装置など)を用いて物理化学的に解析する。また、合成した化合物が、配列やトポロジーを認識し、特定の四重鎖構造に結合する特性を示すかどうかの検討を行う。本研究課題では、低分子の化合物に加え、非標準核酸構造を誘起する人工核酸、あるいは核酸構造を解く機能を有するタンパク質に核酸を共有結合させた人工分子(タンパク-ガイド核酸コンジュゲート)などを設計・構築する。 人工分子を用いて遺伝子の発現を制御できることを「示す」研究としては、まず、「生む」研究で合成した人工分子を用いて、レポーター遺伝子などを用いた簡易的な解析手法を構築してその機能を評価する。その後、人為的な遺伝子の発現制御を可能にする人工分子に関して、細胞内在性の遺伝子を標的に、特定の核酸領域に非標準核酸構造を誘起して核酸機能(遺伝子発現の調節など)を発揮させたり、本来細胞内で形成される非標準核酸構造を不安定化してその機能を阻害したりするといった、核酸機能の制御が細胞内で可能であることを「示す」研究に展開する。
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