2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02301
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
堀内 佐智雄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, フレキシブルエレクトロ二クス研究センター, 上級主任研究員 (30371074)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 達生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00242016)
石橋 章司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 研究チーム長 (30356448)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 結晶構造 / ドメイン構造 / 第一原理電子状態計算 / 圧電性 / 有機材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らが近年世界に先駆け次々と開発してきた有機強誘電体は、電子やプロトンの授受を特徴とし、高分極・低電場動作性に優れる一方で、圧電効果は無機材料と比べ依然小さい。本研究では、問題解決に向けて、新物質・プロセスを開発し、バルク・薄膜状態での結晶構造と強誘電ドメイン状態の詳細を調べる。課題初年度の顕著な成果の一つとして、プロトン互変異型強誘電体の圧電特性を最大限引き出すための自発分極最適化と、それによる有機系で世界最高レベルの自発分極の実現、さらに材料高性能化指針の確立があった。分子の全体または局所回転による強誘電性を示す物質についても、数例新規開拓に成功している。低温から室温までの格子・構造変化、構造相転移の有無やその特徴、分子の回転状態の変化を解明するための実験環境整備として、室内系X線回折装置に温度可変機構を導入し、低温構造解析を行った。薄膜化とその評価については、新たな材料で溶液法による単結晶薄膜作製に成功するとともに、薄膜内の強誘電ドメインを光学イメージとして可視化する強誘電体電界変調イメージング(FFMI)法を新たに開発し、得られたイメージと圧電応答顕微鏡(PFM)による観察結果が一致することを確認した。さらにこれを用いて、電圧印加により分極が書き換わる際のドメイン壁運動の観察に成功した。理論計算については、精密実験で決定された結晶構造の水素原子位置を理論計算で最適化した構造における自発分極値が、実験結果と非常に良い一致を示す結果を得た。誘電・圧電特性計算システムを新たに導入するとともに、格子定数・全原子位置も計算により予測するためのvan der Waals 相互作用を考慮した第一原理計算手法を導入し、いくつかの有機強誘電体についてテスト計算を行ない、妥当な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
強誘電体の圧電特性を最大限引き出すには、単一ドメイン状態にする必要がある。一連のプロトン互変異性強誘電体について、交流高電場により動作阻害要因を効果的に除去したところ、信頼性を改善、最適化後の自発分極性能はすべて、石橋が行った電子状態計算結果を15%以内で再現できた。材料固有の分極特性として、クロコン酸では有機系として世界最高で無機材料の動作レベルに並ぶ自発分極30μCcm-2を実証し、高性能化のための設計指針も明確化できた等、大きな進展があった。低温構造解析システムを整備し、反強誘電性ベンゾイミダゾール分子の低温相の結晶構造を解析し、置換基の回転運動の凍結を確認できた。KEKと共同で、放射光科学研究施設(PF) の活用の下、反強誘電的な電場-分極曲線を描くナフトイミダゾール結晶について電場下回折実験を行い、プロトン秩序の反強誘電から強誘電状態への電場誘起構造相転移を見出した。圧電機能強化に向け、分子の全体または局所回転により強誘電性を示す単一成分や二成分分子系の探索を行い、数例創出に成功した。 今年度開発したFFMI法は、強誘電分極の向きに応じた光学スペクトル変化をエリアイメージセンサにより非接触で一括測定できる新たな強誘電体薄膜評価技術であり、研究は当初の予想を越えて進展している。薄膜化については、新材料で進展が見られたが、薄膜化による抗電界の著しい増大が見られており、その原因究明が必要な状況にある。 精密実験で決定された結晶構造の水素原子位置を理論計算で最適化した構造における自発分極値が、上述のように実験結果と非常に良い一致を示したが、状況によっては格子定数・全原子位置も計算により予測する必要が生じることもあると考えられるので、van der Waals 相互作用を考慮した第一原理計算手法を導入し、いくつかの有機強誘電体についてテスト計算を行ない、妥当な結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
回転(秤動)型分子による強誘電体、圧電体の新物質開発に引き続き取り組み圧電機能の強化を実現させる。プロトンDA型強誘電体分子に可動部位を導入し、機械運動をプロトン移動と同期させることで、強誘電、圧電機能における相乗効果の発現を目指す。材料固有の自発分極に到達できた有機強誘電体については順次、圧電性評価を開始する。具体的には、レーザー変位計による分極―歪同時計測に加え、有機物特有の柔軟さにも対応できる圧電体評価装置を新たに導入することで、圧電定数d33を計測する。さらにインピーダンス測定による圧電共振-反共振評価実施体制も整え、圧電d定数や弾性定数、電気機械結合係数などの圧電諸定数を数多くの有機強誘電体について評価を行い、従来材料に対する比較位置づけとその理由について考察を行いたい。また、電場誘起相転移に伴う顕著な電歪効果が期待される反強誘電体についても、格子定数の電場依存性を回折実験で調べることで、実証したい。薄膜化による抗電界増大については、結晶方位・基板界面・結晶表面・試料環境等に依存したピン止め機構を特定し、強誘電体の特性を最大化する方策を検討したい。またFFMI法と圧電応答顕微鏡により得られる強誘電分極イメージの相関を詳細に検討し、薄膜の厚み方向の分極分布を明らかにすることで薄膜の圧電応答性の最大化を目指す。合わせて、理論計算(必要に応じてvan der Waals相互作用を考慮)により、有機強誘電体・圧電体における自発分極・圧電定数などの各種物性値の予測を行ない、物質開発の指標として活用する。
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Research Products
(16 results)