2017 Fiscal Year Annual Research Report
Industrial application of friction fade-out and clarification of its mechanism
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16H02308
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 孝久 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (60152716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鷲津 仁志 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 教授 (00394883)
川口 雅弘 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部表面・化学技術グループ, 主任研究員 (40463054)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トライボロジー / 超低摩擦 / ダイヤモンドライクカーボン / ジルコニア / 触媒作用 / 水素環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「(1) 摩擦フェイドアウト(Friction fade-out, FFO)の長時間安定発生、(2)水素含有量の少ない混合ガス下でのFFO発生、(3)FFOメカニズム解明、に焦点を絞って研究・開発を行い、実用化に目処をつける。」ことである。FFOの実用化のために、(1)に関しては、微量のエタノール蒸気(0.18slm)をメイン水素ガス(4.35slm)に加えることにより、また、荷重負荷後にエタノール蒸気流量を減少させて相対湿度を下げることにより、長時間の安定したFFOを実現させることに成功した。最長で、水素ボンベが満杯から空になるまでの18時間のFFOの持続に成功した。また、(2)に関しては、29年度に水素と窒素の混合ガスを用いて実験を行い、混合ガスに於いて少しずつ窒素の含有量を増やしてFFO持続発生のためのノウハウを蓄積した。そして、最終的には水素含有量が1%以下の窒素/水素混合ガスにおいてFFOの発生に成功した。(3)に関しては、29年度にSEMによる精密計測、微小硬度計によるFFO発生前後のトライボフィルムの変化を観察し、ジルコニアの触媒作用によって炭化水素ガスが発生し、これが静圧軸受作用をすることにより、摩擦係数が0.0001レベルまで低下するのではないかという仮設を立てた。 この仮説を裏付けるために、X線光電子分光測定(XPS)、ラマン分光測定、フーリエ変換型赤外分光測定、走査型電子顕微鏡観察、微小押込み硬度計測、走査型白光干渉測定などを用いて、トライボフィルムの微細な化学分析を行った。そして、トライボフィルムはDLCから移着した低炭素数炭化水素、エタノールからの脱離水酸基からなり、さらにトライボフィルム表面には軟質・低融点・低伝導度の炭化水素重合体が形成されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は「(1) 摩擦フェイドアウト(Friction fade-out, FFO)の長時間安定発生、(2)水素混合ガス下でのFFO発生、(3)FFOメカニズム解明、に焦点を絞って研究・開発を行い、実用化に目処をつける。」ことである。このうち、(1)および(2)に関して、当初の目的を達成できたと考えている。さらに、(3)に関しても、詳細な計測を行い、界面にエチレンなどの低分子炭化水素ガスの発生を予想する結果を得て、これによりメカニズムの解明に近づいている。一方、材料シミュレーションにより本現象の分子レベルからの解析を進めている。初年度は,移着片と基材のDLCとの間で生じる摩擦現象に関して解析を行った。電子状態を ab initio で計算する量子化学計算では、アモルファス炭素の構造を再現することは困難である。そこで、古典論の範囲で化学反応を扱うことが可能である REBO (Reacting Empirical Bond Order) ポテンシャルを用いて、移着片を模した DLC と、基材 DLC 間の摩擦シミュレーションを行った。初期状態として、末端の H 終端をした系、しない系の二種類に関して摺動シミュレーションを行ったところ、前者が比較的低摩擦であったのに対して、後者は10倍以上高い摩擦力を示した。また、これらのせん断速度依存性は小さかった。すなわち、DLC 間の摩擦に関しては、炭素-炭素間の化学結合の生成、解離が摩擦発生の起源であることが明らかとなった。しかし、この機構だけでは FFO の超低摩擦を説明することができない。そこで、来年度はジルコニア表面を導入した摩擦現象に本シミュレーションを展開する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)実用化に関して:これまでは、摩擦試験機を用いて低速摩擦を行い、FFOの基礎実験を行ってきた。加えて、FFOの実用化に向けて、新規試験装置を設計・製造が完了した。これは縦軸のフライホイール型の摩擦試験装置で、軸下部に取り付けられたジルコニア球とDLCを塗布した円錐カップからなるピボット軸受のみ接触する。そして、軸を回転させるモータを支持するスプリングの変形から、ピボット軸受の摩擦反力を高精度で計測する構造である。次年度はこの摩擦試験機を用いて、高荷重での回転すべり雰囲気下でのFFO発現に取り組む。この試験機を用いて、実用化への道を探る。 (2)メカニズム解明に関して 初年度に引き続き、主として分子動力学を用いた分子機構解析を継続する。これまでジルコニアと炭素系材料間の摩擦を研究した例はないが、化学反応を扱うことができる古典力場 reaxFF では、FFO 実験に関係する全ての原子種を扱うことができる。そこで、reaxFF を用いたジルコニア-炭素系の摺動シミュレーションを行うことにより、移着過程におけるジルコニアの役割、雰囲気中の水分や他の低分子化合物の寄与について明らかにする。さらに、初年度に検討された気体潤滑に必要な化学反応の可能性などを検討する。 (3)29年度にたてた仮設を検証する。トライボフィルムの分析については、FFO発生前、発生途中、および発生後にわけて、トライボフィルムの成長(光学顕微鏡、SEMによる観察)、トライボフィルムの化学分析(XPS分析、ラマン分析、FTIR分析)、電気・熱特性分析(SEM)、およびトライボフィルムの機械的特性分析(微小押込み硬さ試験分析)を実施し、FFOの安定性およびメカニズム解明への足掛かりとする。
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