2018 Fiscal Year Annual Research Report
結晶サイト工学に立脚した蛍光体の設計及び開発原理の構築
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16H02391
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
垣花 眞人 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (50233664)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨田 恒之 東海大学, 理学部, 准教授 (00419235)
佐藤 泰史 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (90383504)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 結晶サイト工学 / 無機材料創成 / 合成プロセス / 蛍光体 / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、CaとMgを含むシリケート系酸化物について、結晶サイト工学の概念に基づき物質探索を行った。複数のCaサイトを有するCa3MgSi2O8について、Eu2+賦活量と発光特性の関係を検討した結果、Eu2+賦活量の増加に伴い発光ならびに励起スペクトルの長波長側へのシフトを確認した。これは、Eu2+濃度の増加に伴いCa-O多面体体積の小さいCaサイトへのEu2+置換が促進されたことが挙げられる。加えて、水溶液法を用いて合成した高濃度Eu2+賦活シリケート蛍光体についてSi濃度が化学両論組成以上の試料における発光強度低下の原因を調査した。これらの試料のXANES測定結果から、Caサイト内のEu3+濃度の増加が確認された。このことから、発光サイト内でのEu3+の存在がEu2+の発光を低下させることが予想された。アップコンバージョン(UPC)蛍光体では、結晶サイト工学の基礎理論に寄与するいくつかの重要な成果が見出された。希土類UPC蛍光体では、希土類イオン内のff遷移による光吸収・エネルギー移動・発光のプロセスが行われる。ff遷移は電気双極子遷移の割合が一般に高く、その確率は希土類イオン周囲の対称性に強く影響を受ける。反転対称性があるときは電気双極子遷移は禁制に、反転対称性がないときは許容になる。平成30年度は様々な母体結晶にErやYbなどの希土類イオンをドープし、その発光プロセスを精密に解析した。その結果、希土類イオン周囲の反転対称性の有無に加えて、希土類イオン同士の距離と配置がエネルギー移動に強く影響し、発光強度を大きく左右することが見出された。また同じ化学組成で結晶構造の異なる2種類のタンタル酸ストロンチウムを用い、エネルギー移動回数の見積もりを行ったところ、Yb同士のエネルギー移動回数が2から3回程度起こっているという結果が得られた。エネルギー移動回数についてこれまで見積もられた例はなく、結晶サイト工学を活用した全く新しいアプローチである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蛍光体の結晶サイト工学の基礎理論構築に向けて着実に前進し、CaMgシリケート蛍光体やアップコンバージョン蛍光体などへの発展が達成できた。新規蛍光体の探索と合成においてもいくつかの優れた材料が見出された。加えて、結晶サイト工学に基づく物質探索において重要となる発光イオンの高濃度賦活に関して、構成元素に対する精密な組成制御が発光特性に対して重要であることを明らかにした。平成29年度に導入した蛍光寿命測定装置を有効に活用することで、新しいアプローチに着手し、有益なデータが蓄積してきた。大学院生を含めた密な連携を継続的に実施しており、当初の計画通りにおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度までに、結晶のBond Valence Sumから発光波長を予測する新規理論を立ち上げた。平成31年度はこの理論に基づき、無機結晶構造データベース中の様々な結晶に対して予測される発光波長を算出し、目的の波長で発光する新規蛍光体を開発する。特に、産業界から強く求められている赤色発光蛍光体に対し、本手法を用いて新規高輝度蛍光体を開発する。また、得られた結果をデータベースとして公開することで、国内外の研究者との連携推進を図る。特にアップコンバージョン蛍光体では世界的に材料探索が十分に行われていない状況であり、本課題で数多くのアップコンバージョン蛍光体の合成とその発光特性を公表することで、日本がアップコンバージョン蛍光体分野を世界でけん引するための研究を遂行する。
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Research Products
(24 results)