2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02418
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
町田 正人 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (70211563)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 触媒 / 融体 / 多孔体 / 貴金属代替 |
Outline of Annual Research Achievements |
低融点の溶融塩をナノスケールの液膜として多孔性物質の細孔壁に被覆した構造を有する、新規な「イオン性溶融ナノ液膜触媒」を開発することを目的として、①融体触媒のスクリーニング、②液膜触媒の設計および調製、③構造・物性解析、④触媒反応開発、および⑤反応機構解析の中で、昨年度に引き続き①②さらには③について検討した。バナジン酸塩、ホウ酸塩および硝酸酸塩系の融体について、多孔質担体にナノスケールの液膜を担持した触媒を調製し、その構造、物性および反応性について調べた。 ①では、バナジン酸塩のうち最も低融点を示すアルカリ金属含有系を多孔質シリカ上に分散することで、550℃では担持融体触媒となることを確認した。SO3分解や酸素放出反応をモデル反応として、融体中の遷移金属元素とSO3分子との相互作用や酸化還元挙動を調べた。SO3分子の融体への溶解は酸塩基相互作用に依存しており、塩基性が最も高いCs-V系が貴金属に匹敵する高活性な触媒として有望であることを明らかにした。 ②では、バナジン酸塩系に加えてホウ酸塩および硝酸塩系の多孔質シリカへの分散担持法を確立した。バナジン酸塩系では550℃以上、ホウ酸塩系では450℃、硝酸塩系では230℃でそれぞれ安定な融体が生成した。融体をナノ液膜化し,安定に担持するための多孔質担体として、三次元細孔構造を有するメソポーラスシリカが最も有望であった。 ③では、細孔内に融体を含浸させた試料について,細孔壁面における融液の濡れ性、コロージョン性などに着目して高温マイクロスコープやその場電子顕微鏡を用いて融体の挙動を調べた。細孔への溶融ナノ液膜の浸透挙動が明らかになった。1000時間程度にわたって融体と接触した高温状態に保持した場合の多孔質担体の結晶構造、比表面積および細孔構造の変化を調べた結果、溶解-再析出機構による非晶質シリカの結晶化や細孔構造の崩壊が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は低融点の溶融塩をナノスケールの液膜として多孔性物質の細孔壁に被覆した構造を有する、新規な「イオン性溶融ナノ液膜触媒」を設計し、不均一系触媒と均一系触媒の長所を併せもつ新機能を発現させることを最終的な目的としている。29年度の研究によって、バナジン酸塩系、ホウ酸塩および硝酸塩が有望な担持融体触媒物質であることを明らかにした。これらは200~600℃にわたる異なる融点および酸化還元挙動を示すので、触媒反応に応じた系の選択によって多様な応用が期待できる。特にバナジン酸塩系は三酸化硫黄分解反応に有効で、Ptに匹敵する高い触媒性能を達成することから貴金属代替触媒として期待できる。ホウ酸塩系や硝酸塩系はより低融点で、特にNaNO3-KNO3の混合硝酸塩系は250~600℃の幅広い温度域で安定な融体であるため、適当な活性成分と組み合わせることによって、新規な触媒反応の開発が期待できる。これらの融体触媒の多孔質担体上での局所構造についても高温その場観察によって重要な知見が得られつつある。得られた情報は融体液膜の濡れ性や揮散性などの構造・物性制御に今後活用していきたい。今後、これら候補物質の担持ナノ液膜触媒の調製法および構造制御法を確立することで触媒材料としての可能性はさらに高まる。多孔質の細孔表面をナノスケールの厚みの液膜で被覆した触媒材料はこれまで開発された例が無く、本研究はきわめて独自性の高い成果を創出できる。
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Strategy for Future Research Activity |
項目①融体触媒のスクリーニング、②液膜触媒の設計および調製、③構造・物性解析、④触媒反応開発、および⑤反応機構解析の中で、今後は③以降を中心に検討する。29年度までの結果をもとに多孔質担体に各種の融体液膜を担持した触媒について、その構造や物性を明らかにするとともに触媒反応への適用を進める。具体的な方策について以下に記す。 (1)融体内に存在する配位多面体について高温Raman分光法を用いて解析し、オキソ酸塩や金属酸化物の局所構造に関する情報を得る。固相の解析結果と比較して、融体内の構造の特徴を明らかにする。さらに溶融状態での酸化還元および気体溶解・放出特性をXPS、TPD、TG/MSなどの手法で調べるとともに、それに伴う局所構造の変化を詳細に調べる。 (2)溶融液膜触媒を用いる反応を開発する。SO3分解(SO3 = SO2 + 1/2O2)はソーラー熱化学水素製造プロセスの水から酸素を生成する汎用性の高い半反応として重要である。SO3はバナジン酸塩融体に硫酸イオンとして高濃度で溶解することが知られている。これまで本研究では融体内に塩基性金属元素もしくは酸化還元性金属元素が含まれる場合にSO3あるいは硫酸塩の分解が飛躍的に加速されることを明らかにしている。本項目では多様なバナジン酸塩融体の化学組成によるSO3の溶解度や酸化還元性の違いの要因を明らかにするとともに、SO3分解反応機構の解明を目的として、融体内での硫酸イオンの配位挙動と反応速度の分圧依存性、活性化エネルギーを系統的に調べる。 (3)このほかに本研究で開発した種々の溶融ナノ液膜触媒を用いて新規な触媒反応を開拓する。融体構成成分に類似の分子は、その親和性が期待できるので候補として検討する。例えば硝酸塩系融体にはNOやNO2の関わる反応を検討する。反応性が確認できた場合は、融体への各種気体分子の溶解挙動を調べる。
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Research Products
(9 results)