2017 Fiscal Year Annual Research Report
Glial dysfunction causes age-related long-term memory impairment in Drosophila
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16H02461
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
齊藤 実 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 基盤技術研究センター長 (50261839)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 長期記憶 / 老化 / ドーパミン / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
ショウジョウバエでは羽化後20日以降で長期記憶に顕著な障害が現れる。これまでの研究から、加齢脳ではグリア細胞と神経細胞間の接着因子として働くKlgの発現が低下し、その結果グリア細胞特異的転写因子Repoの長期記憶学習後の発現上昇が抑制されることが分かった。そこでグリア細胞でRepoの発現を上昇させたところ、加齢性長期記憶障害が顕著に改善すること、長期記憶学習によりRepo依存性に興奮性アミノ酸トランスポーター(deaat1)の発現が上昇する一方で、Repoの発現が低下している加齢体では長期記憶学習によるdeaat1の発現上昇が起こらないことを見出した。これらの結果から、長期記憶学習で上昇した神経細胞の興奮性を、deaat1の発現上昇によりクールダウンさせることが、その後の記憶情報の安定化に必要なことが示唆された。そこでNMDA受容体の阻害剤を長期記憶学習後に摂取させたところ、Repoの過剰発現同様、長期記憶が顕著に改善することが分かった。 以上の結果を背景に、今年度は細胞死シグナルの上昇が、特に想起に関わることが示唆されているMB060Bドーパミン作動性神経細胞群での細胞死シグナル上昇が主たる原因であり、このMB060Bドーパミン神経細胞群で細胞死シグナルを抑制すると、加齢性長期記憶障害が顕著に改善することが分かった。即ち、長期記憶学習後に細胞死シグナルの主要因子カスパーゼの阻害タンパクP35をMB060Bに強制発現させたところ、加齢性長期記憶障害の顕著な改善が見られた。一方で他のドーパミン作動性神経やグルタミン作動性神経、記憶中枢のキノコ体神経細胞などでP35を発現させても加齢性長期記憶障害の改善は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りに加齢性長期記憶障害の原因となるグリア細胞でのklg/Repo/deaat1経路を行動遺伝学的手法により明らかにし、長期記憶学習後の神経活動の沈静化が加齢体では十分でないことを解剖学的解析から明らかにし、神経保護薬を使った行動薬理学的解析からも確認出来た。またドーパミン作動性神経細胞の機能分類を進め、感覚情報の連合・強化に関与するドーパミン作動性神経と想起に関与するドーパミン作動性神経が異なる細胞群を形成することが分かった。加齢性長期記憶障害では、長期記憶学習後の安定化の過程でklg/Repo/deaat1経路活性不全により、細胞死シグナルが特に想起に関与するMB060Bドーパミン作動性神経細胞で誘導されることが加齢性長期記憶障害を引き起こすこと、さらに長期記憶学習後にリハーサル想起を伴う記憶情報の再統合が起こることなど、新たな記憶機構の概念とその神経基盤を示唆する成果も得られた。以上のことから概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、短期記憶の「想起」にのみ必要なMB060Bドーパミン作動性神経が、長期記憶では想起過程のみならず長期記憶学習後の安定化の過程にも必要なことが分かった。このことから「安定化の過程では獲得した記憶情報の想起を繰り返すリハーサルにより長期記憶情報が安定化する」との仮説を立てた。そこでin vivoイメージングにより長期記憶学習後MB060Bドーパミン作動性神経の神経活動とシナプス小胞開口放出を顕微鏡下に固定した老齢体および若齢体で観察し、安定化過程でのリハーサルを検証する。さらに加齢性長期記憶障害を抑制する薬理学・遺伝学的操作が安定化過程でのMB060Bドーパミン作動性神経の神経活動とシナプス小胞開口放出にどのような影響を与えるか調べる。
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