2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02516
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
森 郁恵 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90219999)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 神経回路 / 意思決定 / 行動選択 / 情報処理 / C.elegans |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、脳神経回路地図が明らかになっている線虫が示す飼育温度探索搾取行動に着目し、脳神経系において、意思決定過程を経て行動を選択するという一連の情報処理メカニズムの解明を目的とする。 線虫は飼育温度を記憶し、温度勾配上に置かれると飼育温度を探索し、その温度域付近に到達する頃になると、等温線上に沿って前進行動を続けながらその温度域に留まろうとする。この記憶温度探索搾取行動を実行中の線虫個体の運動を、時系列に沿って追尾することで、行動を成立させるための運動要素の動的な遷移を解析した。高解像度の動画を長時間計測し、数百個体の行動の時系列を定量的に評価できるシステムであるMulti Worm Trackerを用いて、記憶温度探索搾取行動中の異なる運動要素(たとえば、前進、後退、シャローターンと呼ばれる浅い角度での前進方向の変更、など)の切り替えやそれらの組み合わせを検出し、それらの遷移過程を計測した。また、記憶温度探索搾取行動に重要な遺伝子群の機能欠損突然変異体や、細胞特異的なCaspaseの発現により各神経細胞に細胞死を誘導した系統について同様の行動解析を行い、分子や神経細胞が運動要素の切り替えや遷移に果たす役割を明らかにした。これは行動戦略の分子・細胞・回路基盤の理解において重要な知見である。さらに、温度受容神経細胞AFDと、AFDから直接入力を受ける介在神経細胞であるAIYの神経活動に焦点を絞って解析を行なった。固定下の野生型個体および各神経細胞の機能が異常となる突然変異体に対して、カルシウムイメージングを用いて詳細に計測し、行動解析と同様に、計測データを数理物理学的手法により解析した。さらに自由行動下での解析を実施することで行動とAIY神経活動の関係とそれに関わる特定分子の役割を解析した。これにより行動を選択する際の神経回路における情報処理メカニズムの理解を促進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の達成に必要な研究実施事項を着実に遂行し、神経科学における重要な知見が得られつつある。また得られた成果は国際的な専門誌への論文発表として準備を進め、申請した研究計画期間内での発表が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
Multi Worm Tracker を用いたハイスループット解析から、神経科学として複数の重要な知見が得られてきているため、それらを適切な形で発表し、またそれらの成果を別のアプローチと組み合わせることでさらなる理解を促進する。特にカルシウムイメージングを用いた非侵襲神経活動計測と、光遺伝学を用いた神経活動の制御と組み合わせることで、1細胞レベルの神経活動と行動の対応付け、また因果関係の検証を進める。今後も神経活動、行動の計測と遺伝学ツールの利用、そして数理モデルの活用により効果的に研究を進める。
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Research Products
(13 results)