2016 Fiscal Year Annual Research Report
クローナル生物共存の生態機構解明と遺伝基盤:絶対単為生殖型ミジンコを用いた解析
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16H02522
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
占部 城太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (50250163)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共存機構 / ニッチ / クローン生物 / 生殖様式 / 湖沼 / ミジンコ / 進化 / 外来種 |
Outline of Annual Research Achievements |
種内競争は短期的時間スケールでは個体群に有利に作用するが、遺伝的多様性の減少により長期的には環境変化に対して不利に作用すると推定されている。しかし、実際には種個体群の遺伝的多様性と種内競争との関係はよく分かっていない。本研究は、数百~数千年前に日本に侵入した絶対単為生殖型ミジンコ(Daphnia pulex)を対象に、異なる遺伝子型集団(クローナル個体群)間のニッチ分化と同所的共存機構を調べることで、遺伝的多様性の創出と維持に果たす競争の役割を明らかにすることを目的として実施している。本研究は、(1)野外調査、(2)ニッチ測定実験、(3) 競争実験、 (4)ゲノムシーケンス解析、(5)遺伝子発現解析を組み合わせて行うことで研究を進めているが、本年度は、(1)(2)を中心に行い、 (4)を開始した。 (1)の野外調査は山形県畑谷大沼において実施し、水温や藻類などの環境・生物データともにミジンコを定量採集した。採集 したミジンコは個体群密度を調べた後、マイクロサテライト多座遺伝子解析を行ってクローン毎のニッチ空間の相違を推定した。(2)のニッチ測定実験はD. pulexの4クローンと、近似種である北米産D.pulicaria及び本研究で再発見されたD. mitsukuriを対象に、成長応答実験を行った。その結果、競争能力の鍵となるゼロ成長餌密度は在来種と考えられ分布が限られているD. mitsukuriではるかに高いこと。よってD. mitsukuriは外来種であるD. pulexより競争的に劣ること、ただしD. pulex種内でもクローンによって競争能力が大きく異ること、などが分かった。 (4)のゲノムシーケンス解析では、21クローンを対象に核の全塩基配列の解読を行い、上記競争能力の違いを生み出す遺伝基盤解明のためのゲノミクス解析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定どおりの調査項目を実施することが出来たが、調査の過程の中で、小湖沼を生息場所とするD. pulexと近似の別種が見つかった。形態及び遺伝解析により詳細に調べたところ、130年前に日本で新種として記載されたD. mitsukuriであることが判明した。この種の出現は極めて珍しいことから、 D. pulexの増加により近年は分布が限られている可能性がある。そこで、これら在来種との比較も検討するために、D. mitsukuriも研究対象として含めることとした。 ゲノム解析にあたっては、当初15クローンを対象に行う予定であったが、D. pulexの本来の分布域である北米の個体やD. mitsukuriを含め、計21クローンを対象に核ゲノムの解読を行った。21クローンの全塩基対の解析は当初予定よりも早く修了し、現在は比較ゲノム解析を行い、日本侵入後に変異した遺伝子の抽出を行っている。このように、研究は順調に進呈していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる2017年度も当初計画に沿って研究を実施する。
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