2018 Fiscal Year Annual Research Report
森から海までの生態系連環機構の解明によるニホンウナギ資源の再生
Project/Area Number |
16H02563
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 洋 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60346038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 亮 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00533316)
荒井 修亮 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (20252497)
望岡 典隆 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40212261)
笠井 亮秀 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (80263127)
木村 伸吾 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (90202043)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ニホンウナギ / 森里海連環 / 生物生産力 / 生物多様性 / 河川生態系 / 食物網 / 生物群集 / バイオテレメトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
河川の構造、環境、生態系とそれらに対する流域土地利用の影響を分析し、森川里海の生態系の連環、ニホンウナギの生産を支える環境と生物群集構造を流域レベルで調べ、ウナギの資源生産の観点から河川再生方策を検討することを目的とした。 天然ウナギ漁獲量が多い大分県の桂川及び伊呂波川、我が国のウナギ分布域の中央付近に位置する和歌山県白浜町周辺3河川、北部の福島県松川浦とその流入3河川において調査を実施した。桂川と伊呂波川では、森林から供給される溶存態窒素濃度に大きな差が認められ、濃度の高い桂川においてウナギの餌料生物が豊かで、ウナギのバイオマス及び成長速度も高かった。溶存態窒素の主な起源は大気性降下窒素と推定されたが、生態系の許容範囲内では高濃度の溶存態窒素が水系の生産力を高め、ウナギの生産にも貢献することが示された。松川浦と流入3河川で採集されたキウナギの胃内からは、主に小型魚類、エビ類、カニ類、水生昆虫類が観察された。ウナギ筋肉の安定同位体比分析により、ウナギは汽水型(松川浦)、淡水型(河川)、中間型の3群に分けられた。松川浦内の石倉で採集されたウナギの約半数は汽水型であったが、残りの半数は中間型を示した。超音波発信機を装着して浦内に放流された20個体の天然ウナギのうち、7個体が一時的あるいは長期間河川に移動した。とくに、昼間松川浦内で過ごし夜間河川に移動して摂餌を行う索餌様式を示す個体があり、安定同位体比分析により中間型に分類された個体の多くは、このような生活パターンを有することが示唆された。白浜町を流れる富田川においても、天然ウナギ20個体、養殖ウナギ5個体に超音波発信器を装着して放流追跡調査を行った。養殖ウナギは松川浦での調査と同様に、短期間に沿岸域へ移出した。2018年度は台風などにより近畿圏では数回の集中豪雨があり、多くのウナギがこの際に外海に流出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大分県国東半島宇佐地域の河川では、流域の森林面積率が高く栄養塩の多い桂川において、ニホンウナギを含む水生動物が豊かであり生産力も高いことがわかった。また、水田からは微細粒子が河川に流出し、底質の細粒化など河川環境に悪影響を及ぼすことが推察された。しかし、人間活動と水圏生態系との関係は複雑であり、例えば桂川の溶存態窒素の起源は大気性降下窒素と推察されるが、降下窒素が直接河川へ流入するわけではなく(降下窒素は渓流水中の窒素の4%未満)、窒素は長期に森林生態系の中で循環し、その後窒素飽和により河川へ流出するメカニズムが示唆された。大気汚染物質とも言える降下窒素がまず森林生態系で利用され、次に河川において水圏の生物生産に貢献していることが考えられたが、この現象に対する生態学的な評価は今後の課題である。福島県松川浦では水田の用水路として利用されている小河川に、天然ウナギが高密度に分布していることを確認した。しかし、小河川の多くは3面張りの構造をもち、そのような河川では若齢ウナギ密度が高いのに対して大型ウナギは少なく、ウナギの生残率が低いことを示した。また、ウナギの河川遡上において、堰が大きな障害であることを確かめた。本調査により、全長20cm以下の小型ウナギ、それより大型の黄ウナギに対する堰の影響及び好適な河川生息環境を把握した。和歌山県白浜町では、住宅街を流れ生活排水が流入する小河川において、高密度に天然ウナギが生息する水域を発見した。現在、この水域におけるウナギの食性と成長速度を分析するとともに、超音波発信器を装着した15個体の天然ウナギを放流して、その行動を追跡している。本課題もあと1年となったが、研究は概ね計画どおりに進捗しており、最終年度に残された分析及びデータ解析を行うことで、本種資源を回復させるための自然再生方策につながる知見を提示できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
我が国のニホンウナギ分布域の南部にあたる大分県桂川、伊呂波川、中部の和歌山県富田川、高瀬川、安久川、北部の福島県松川浦と流入する宇多川、梅川、日下石川で調査を行った。桂川、伊呂波川、富田川、高瀬川、宇多川は流域の森林率が高く、梅川、日下石川は水田の用水路、安久川は住宅地の割合が高いという特徴を持つ。採集方法が異なるため、これらの河川間でウナギの分布密度を直接的に比較することはできないが、いずれの河川においても比較的高密度にウナギが採集された。現在、胃内容物分析、安定同位体比分析により餌料生物の組成と炭素の起源を調べ、耳石を用いて成長速度を推定し、本種の生産構造や生産力に対する緯度、流域の特徴、河川環境などの影響を解析中である。また、松川浦、富田川、安久川において、超音波発信器を装着した天然ウナギを放流して行動を追跡しており、松川浦では日周期的及び季節的な行動特性が明らかになった。本種は水質や河川構造の変化に対して比較的高い適応力を有し、環境がいくつかの条件を満たせば生息できることがわかってきた。例えば、コンクリート3面張りの小河川であっても、部分的な自然再生によりウナギの棲みやすい環境に変えられることが示唆されている。そこで、生息に不可欠な環境条件を把握するために、若齢魚(クロコ)と黄ウナギの生態の把握、好適な物理・生物環境の特定を行っている。さらに、堰がウナギの生息域の拡大の阻害要因であることがあらためて確認されたが、堰の垂直面に何らかの構造を付与することでウナギが遡上できる可能性が見えてきた。日本では都市を流れる河川であっても水質はかなり良好である。また、市街地や水田には多くの小河川が血管のように走っていることから、これらの河川を好適な環境に再生することで、本種の生産力を回復させる可能性について具体的な検討を行う予定である。
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Research Products
(13 results)