2017 Fiscal Year Annual Research Report
骨格筋発達の統合的理解を目指す異種細胞間コミュニケーション機構の全容解明
Project/Area Number |
16H02585
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西邑 隆徳 北海道大学, 農学研究院, 教授 (10237729)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 善真 鳥取大学, 農学部, 教授 (00337023)
辰巳 隆一 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40250493)
尾嶋 孝一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (60415544)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 骨格筋 / 細胞間コミュニケーション / 筋細胞 / 脂肪細胞 / 運動神経末端 / 細胞外マトリックス / 筋線維型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、家畜骨格筋における筋肥大と脂肪蓄積の制御機構を解明することを目的に、骨格筋内の異種細胞間コミュニケーション機構について検討した。 1.培養脂肪細胞が分泌するエクソソームに含まれるmiRNAの発現変動を解析した。検出されるmiRNAの数は脂肪細胞の分化初期に多く分化に伴い減少した。クラスタリングヒートマップの結果,エクソソームに含まれるmiRNAは脂肪細胞の分化に伴い質的にも変動することが明らかになった。 2.脂肪細胞と共培養した筋芽細胞における筋特異的ユビキチンリガーゼの発現を調べたところ、Atrogen-1およびMuRF-1の発現は遺伝子レベルならびにタンパク質レベルで亢進していた。また、MyostatinおよびIL-6の発現量はタンパク質レベルで対照区に比べて有意に高かった(p<0.05)。以上の結果は、共存する脂肪細胞が筋細胞の分解系にも影響していることを示唆している。 3.グリセロール損傷マウス筋モデルを用いて外因性TGF-b1が筋再生及び脂肪形成に及ぼす影響を検討した結果、グリセロールとTGF-b1を同時に骨格筋に注入した区ではグリセロールのみ注入した対照区に比べて、筋線維の密度および脂肪組織領域が有意に低下した。以上よりTGF-b1は、筋再生や脂肪形成の初期段階で強力に抑制効果を発揮することが明らかとなった。 4.衛星細胞が分化初期特異的に合成・分泌する神経軸索ガイダンス因子Sema3Aは、運動神経末端の筋線維接着(運動神経支配の確立)に必須な要素であるニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR)の発現および細胞膜での機能的凝集を誘導する鍵因子であることをin vitroで実証した。また、APOBEC2をノックアウトすると筋衛星細胞のセルフリニューアル機能が低下し組織内の衛星細胞数が有意に減少することを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は、1. 筋細胞及び脂肪細胞が分泌するエクソソームの解析、2. 筋細胞と脂肪細胞の細胞間コミュニケーション、3.筋損傷後の筋再生と脂肪形成、4. 筋再生における筋衛星細胞と運動神経との細胞間コミュニケーションについて検討を進めた。1 では、培養脂肪細胞が分泌するエクソソームに含まれるmiRNAは脂肪細胞の分化に伴い量的・質的に変動することを明らかにしたので、現在、脂肪細胞由来のエクソソームを取り込んだ筋細胞のmRNAの網羅的な発現解析を行っている。2については、H28年度に脂肪細胞が筋細胞の分化を抑制すること、その制御因子の一つとしてミオスタチンが関わっていることが示唆されたので、H29年度は脂肪細胞と共培養した筋細胞における筋特異的ユビキチンリガーゼの発現解析を行った。その結果、Atrogen-1およびMuRF-1発現が亢進していることから、脂肪細胞が筋細胞の分解系にも影響する可能性を示した。3では、H28年度に、マウス前脛骨筋をグリセロールで損傷させた後に筋形成と脂肪形成を観察する「グリセロール損傷筋モデル」の有効性を明らかにしたので、H29年度は、このモデルを用いて筋損傷後の筋および脂肪形成に及ぼすTGF-b1の影響を検討したところ、TGF-b1が筋再生や脂肪形成の初期段階で強力に抑制効果を発揮することを示した。4では、筋線維の運動神経支配を解除すると衛星細胞で高発現するAPOBEC2の機能解析をさらに進めた結果、APOBEC2は分化した衛星細胞が融合し新生筋線維を形成するパスウェイを抑制しセルフリニューアルを促進することをより明確にした。また、衛星細胞が分化初期特異的に合成・分泌する神経軸索ガイダンス因子Sema3Aの新たな生理機能として「運動神経末端の筋線維接着の制御」を明らかにした。以上のように、本研究は概ね順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.異種細胞の共存が筋細胞のエクソソームに及ぼす影響:筋細胞由来のエクソソームが脂肪細胞に及ぼす影響を検討するために,筋細胞由来エクソソームに含まれるmiRNAの発現解析を行う。さらに,エクソソームの由来となる細胞種(筋/脂肪細胞)により,生体内でエクソソームが標的とする組織(骨格筋あるいは脂肪組織)に違いを生じるのかを、蛍光標識したエクソソームをマウス生体内へ尾静脈経由で導入し,各組織における導入効率および表現型に及ぼす影響を調べる。 2.筋分化過程における筋線維型決定に及ぼす脂肪細胞の影響: 脂肪細胞が筋衛星細胞の分化過程における筋線維型の決定にどのように影響するかを明らかにするために、マウス白色筋および赤色筋より調製した筋衛星細胞を脂肪細胞共存下で培養した場合に筋線維型決定関連因子(Sema3AやNetrin)およびミオシンアイソフォームの発現様相を調べる。 3. 骨格筋内における脂肪組織化のメカニズム解明:TGF-b1が筋損傷後の筋および脂肪の分化に影響を及ぼすことが明らかとなったことより、グリセロール損傷筋モデルを用いて筋再生時の因子発現の動態を明らかにする。さらに、このときのTGF-b1と分子レベルで相互作用する因子を探索し、この因子の筋分化および脂肪形成過程での機能と役割を解明する。 4. 筋再生における筋衛星細胞と運動神経との細胞間コミュニケーション:衛星細胞が分化初期特異的に合成・分泌する神経軸索ガイダンス因子Sema3Aが、運動神経末端の筋線維接着(運動神経支配の確立)を制御する鍵因子であることをin vivoで実証することを試みる。そのため、強力な実証実験系である衛星細胞特異的Sema3Aコンディショナルノックアウトマウスの筋損傷実験を実施する。 以上の実験で得られた結果を取り纏め、日本畜産学会、日本獣医学会およびアメリカ細胞生物学会で成果発表する予定である。
|
Research Products
(7 results)