2017 Fiscal Year Annual Research Report
新規分析法を用いたモービリウイルス感染後のアセチル化ネットワークの包括的解析
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16H02587
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
甲斐 知恵子 東京大学, 医科学研究所, 教授 (10167330)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウイルス / アセチル化 / 脱アセチル化 / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに麻疹ウイルスを含むモービリウイルス属が上皮系細胞でハウスキーピング遺伝子群の広範な発現低下を引き起こすことを発見し、この現象に宿主蛋白のアセチル化修飾状態の大きな変動が関与することを示唆する結果を得た。本研究課題では、モービリウイルス感染後の細胞のアセチル化の全動態を、近年確立された網羅的・定量的アセチローム解析により明らかにし、さらに宿主遺伝子発現変動とウイルス増殖との関与を明らかにすることを目標とする。 1)モービリウイルス感染後の上皮系細胞の定量的アセチローム解析・・・前年度の予備試験により定量的アセチローム解析のための条件検討を決定した。本年度は研究協力者が転出しそれに伴い自作サンプルの至適条件の決定に時間を費やしたが、年度内にサンプル調製を終え、解析に供することができた。 2)hMOFによるハウスキーピング遺伝子群発現制御・・・hMOF分子によるハウスキーピング遺伝子群の発現制御機構を検索することとした。本年度は、抗hMOF抗体を用いたChIP-seqの条件検討を行い、さらにhMOFと高分子複合体を形成する複数のサブユニットに対する抗体でも同様にChIP-seqを行うこととした。 3)ヒストンアセチル化変動の感染後宿主遺伝子群発現制御への関与・・・麻疹ウイルス感染時に起こるヒストンの特異的なリジン残基のアセチル化修飾の低下機序と宿主転写動態への実際の関与について検索を行った。特に本年度は、麻疹ウイルス感染によるhMOFの分解メカニズムを探索し、分解とヒストンアセチル化の減少との関連付けをより明白にした。 4)脱アセチル化酵素阻害剤のウイルス増殖能抑制効果・・・前年度に発見した、脱アセチル化酵素の一つに対する特異的阻害剤が麻疹ウイルスの増殖を著しく抑制する現象において、当該阻害剤がウイルス増殖過程のどのステップを阻害するかを新たに検索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)麻疹ウイルス感染後の定量的アセチローム解析に関しては、前年度に細胞培養からウイルス感染までの条件を確立したため、続く質量分析用試料作製を研究協力者が分担して行う予定であった。しかし研究協力者の転出に伴い、試料作製の条件検討を自ら行うこととなったため研究に遅延が生じた。幸い年度内に自作サンプルの作製を終え、質量分析に供することができた。 2)hMOFによる遺伝子発現制御機構については、すでに報告実績のある市販抗体(抗hMOF抗体および関連分子の抗体)を用いてChIP-seqのサンプル作製を行い、外注企業へサンプルの一部を提供しバリデーションを行った。その結果、ChIPによるDNA濃縮が検出されず、他メーカーの抗体で再度試験することとなった。引き続き至適条件の検討を行っている。 3)ウイルス感染後のhMOFの分解機序について検索を行い、その結果、麻疹ウイルス感染後に脱アセチル化酵素の1つの発現が上昇し、それによりhMOF自身のアセチル化リジン残基の脱アセチル化が起こることでユビキチン経路による分解を受けること、およびそれによりヒストン特異的リジン残基のアセチル化が実際に低下するという、一連のメカニズムを解明することができた。 4)興味深いことに、前年度の解析の中で、アセチル化酵素の一つの特異的阻害剤の添加により麻疹ウイルスの増殖が著しく抑制されることが明らかになった。これまで報告のない現象であり、全く知られていない増殖抑制機序によるものと考えられることから、このメカニズムに関して研究を進めた結果、ウイルスゲノム複製には影響せず、ウイルス膜蛋白と細胞膜の融合過程に影響を及ぼすことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
これからの研究の方向性については、1)-3)に特段の変更はない。特に、安定同位体ラベル法を用いた定量的アセチローム解析のサンプル提供を終えることができた事から、解析結果が得られた際は、アセチル化の増加および減少蛋白群に分け、それぞれの群にどのような蛋白が多く含まれるかをgene ontology解析により明らかにする。得られた結果を細胞で実際に反映する試験系を構築し、アセチローム解析の評価を行う。これら一連のデータは、ウイルス感染後のアセチル化動態の継時的変化として初めての成果になると考えられる。 また、hMOFによる遺伝子発現制御は、これまでの報告からhMOFを含む複数の分子からなる複合体形成が重要であると考えられるため、引き続きChIP-seq解析を行い、麻疹ウイルス感染後の宿主遺伝子発現に関与する分子の同定を試みる。さらに、感染後のhMOFの分解にアセチル化とユビキチン化の関連が示されたことから、この現象が宿主細胞だけでなくウイルス自身の感染-増殖にどのように関与するか検索を進める。 前年度見出された脱アセチル化酵素の阻害によるウイルス増殖の抑制に関しては、研究項目を新たに立てて解析を進めることとした。特に、この抑制効果がウイルスと細胞膜の融合に関わることが示されたことから、細胞膜蛋白とウイルス膜蛋白のアセチル化の変化を中心に解析を進め、この現象に関与する蛋白を同定する。
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Research Products
(31 results)