2018 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular mechanisms of stress hardening in insects
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16H02595
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
早川 洋一 佐賀大学, 農学部, 教授 (50164926)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ストレス順応性 / 誘導因子 / N-acetyltyrosine / 活性酸素 / 抗酸化酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度、以下のような具体的研究成果が得られた。 1)カイコ幼虫にN-acetyltyrosine(NAT)を1 micromol/larva注射し、4時間後に44度/1時間という致死的熱ストレスを与えた結果、アワヨトウ幼虫同様の生存率の上昇が見られた。したがって、NATはアワヨトウ以外の鱗翅目昆虫にもストレス耐性増強作用を示す事を証明できた。 2)西洋ミツバチへの女王蜂からの隔離ストレス、すなわち、巣箱から採取した若いワーカーを小さな虫籠に入れ、NATを含むハチミツ水投与の影響を見た。その結果、0.01-0.1mMのNAT含有ハチミツ水の投与によって有意にストレス耐性が上昇する事を明らかにした。しかし、これ以上、あるいは、これ以下の濃度のNAT含有ハチミツ水によっては、生理的効果が見られなかった。この結果から、膜翅目昆虫であるミツバチに対しては濃度依存的なストレス耐性増強作用を示す事を証明できた。 3) 予備的に行ったマウスを用いた実験によって、予め1g/kg-weightのNAT水を投与したマウスでは、1時間の強制水泳という強度のストレスによる血中過酸化脂質濃度の上昇を抑える生理的効果がある事が分かった。ただ、同時に測定した血中コルチコステロン濃度には有意な差は見られなかった。従って、ストレス条件を更に検討し、本当にNATは血中コルチコステロン濃度変動には影響しないのかどうかについて明らかにする必要がある。なぜなら、血清中のコルチコステロン、過酸化脂質とも哺乳類において重要なストレス指標となっている為、一方に対してのみ濃度上昇抑制効果を示すというのは、やや矛盾があるように思われるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ストレス順応性誘導因子として同定したN-acetyltyrosineは、ストレス負荷を受けたアワヨトウ幼虫では、脳―神経節から未知活性因子が分泌され、これによって特定の組織から生合成・分泌が誘導されると予想している。一昨年度、脳―神経節から同定した未知活性因子3-hydroxykynurenineは、今年度の解析結果より、NAT生合成・分泌の上流因子では無いと結論せざるを得ない。なぜなら、脳―神経節内の3-hydroxykynurenine濃度はストレス依存的上昇を示さない上に、アワヨトウ幼虫への3-hydroxykynurenine注射によって体液中NAT濃度上昇が見られなかったからである。再度精製条件を変えて幼虫脳―神経節からの活性因子の単離を再度試みている。これとは、別に、進めてきたアワヨトウ以外の動物へのN-acetyltyrosine生理活性についての解析では以下のような成果を得た。まず、西洋ミツバチへの女王蜂からの隔離ストレス、すなわち、巣箱から採取した若いワーカーを虫籠に入れ、N-acetyltyrosineを含むハチミツ水の影響を見た結果、0.01-0.1mMのN-acetyltyrosineの投与によって有意にストレス耐性が上昇する事を明らかにした。さらに、マウスを用いてN-acetyltyrosineの生理活性を測定した。具体的には、1g/kg-weightのN-acetyltyrosineを5日間投与し、6日目に強制水泳・1時間というストレスを与えた後に、血中コルチコステロンと過酸化脂質濃度を測定した。その結果、前者のコルチコステロン濃度にはコントロール値と有意な差は見られなかったものの、過酸化脂質は顕著に減少する事が分かった。従って、N-acetyltyrosineは昆虫のみならず、哺乳類に対してもストレス耐性増強作用がある可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の2種類の研究を並行して進める。 1) 分泌・作用機構解析研究:今年度は、NAT産生組織の同定に重点を置く。具体的には、ストレス条件下に置かれたアワヨトウ幼虫から脳-神経節、脂肪体、外皮、中腸、後腸、血球などを摘出し、その組織抽出液を調製する。こうした組織抽出液を逆相のHPLC分析を行い、NAT存在の有無を確認する。次に、NAT含有組織とストレス条件下のアワヨトウ幼虫の脳-神経節抽出液共培養し、組織内あるいは培養液中のNAT濃度をHPLC分析する。 NATの生理的作用機序の解析については、NATによる抗酸化酵素遺伝子発現上昇活性に着目し、上流の転写調節因子の解析を行う。抗酸化酵素遺伝子発言調節に関与するシグナル伝達経路が報告されているが、その中で最も可能性が高いと予想されるFoxOの関与について、組織免疫染色やリアルタイムPCR法を用いて細胞内分布と遺伝子発現レベル両方向から解析を進める。 2)NAT構造解析研究:昨年度、NAT生合成系のキーエンザイムをN-acetyltransferaseと予想し、キイロショウジョウバエの当該酵素候補遺伝子のRNAiによって解析した。その結果、中腸細胞 (enteroendocrine cells)におけるノックダウンによってコントロール系統に比べ有意な順応性能の低下が検出できた。しかし、他の組織細胞(真皮細胞や脂肪体細胞)におけるRNAiでは、上記のような結果は得られなかった。従って、今年度は、高温ストレス環境下で中腸enteroendocrine cellsにおいてN-acetyltransferaseの遺伝子発現が上昇するかどうかについて検証を進める。さらに、有機合成によってNATのエステル化合物などを調製し、ストレス耐性誘導能についてアワヨトウ幼虫を用いて分析を進める。
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[Journal Article] Identification of a cytokine combination that protects insects from stress.2018
Author(s)
Matsumura, T., Nakano, F., Matsumoto, H., Uryu, O., Hayakawa, Y.
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Journal Title
Insect Biochem. Mol. Biol.
Volume: 97, 19-30.
Pages: 19-30
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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