2016 Fiscal Year Annual Research Report
痛み治療のための再生医療の開発:細胞移植技術と徐放製剤を活用した新規アプローチ
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16H02678
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
齋藤 繁 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (40251110)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田畑 泰彦 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (50211371)
高澤 知規 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (30400766)
荻野 祐一 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (20420094)
久保 和宏 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (80546531)
須藤 貴史 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60739621)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 慢性疼痛 / 再生医療 / 抑制ニューロン / 脊髄後角 / 神経障害性疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年の研究では様々な実験手法を用いた多角的なアプローチでこのメカニズムの解明を試みた。脊髄後角の局所抑制回路では、I層およびII層外側ではGABAが重要であるが、II層内側より深部ではグリシンが重要であると報告しているものを再確認した上で、神経障害性疼痛のモデル動物の脊髄、青斑核、その投射系の細胞活動について薬理学的に検証した。 行動実験:疼痛閾値の測定では、様々な薬剤を投与した上で、Paw-pressureテストを用い他実験を行った。機械的侵害刺激を動物の後肢に与え、逃避した時の圧を逃避閾値として算出した。正常ラットの逃避閾値は200g程度であるが、SNLラットでは神経切断後100g前後まで低下する。この実験では、SNLラットの機械的痛覚過敏が薬理学的介入によってどの程度改善するかを観察した。 免疫組織学的実験では、薬理学的前処置後、4%PFAにてラットを潅流固定し、脊髄を取り出して形態観察用の切片を作成した。青斑核の投射経路を検索し、あわせて、脊髄後角の抑制性介在ニューロンは主に頭尾側方向に神経突起を伸ばすので、厚さ40 μmの矢状断切片を作成し、この切片から共焦点顕微鏡による連続的な写真撮影を行なった。 これらの実験により、末梢神経障害性の痛みでは下行性制御系の活動が重要である事が確認された。特に、動物実験において三環系抗うつ薬が末梢神経障害後の痛み誘発性鎮痛の減弱を回復させることが確認された。また臨床的研究としてペインクリニック外来を訪れた慢性痛患者を対象として、問診票による神経障害性スコア(painDETECT Questionnaire)とMRI画像での大脳形態(voxel-based morphometry)の相関を検討した。その結果両側前帯状回、右後帯状回との性の相関が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
事前計画にある、マウスを使用した先行研究の、MGEから取り出した細胞を移植すれば疼痛が減弱するとの結果に関して知見を得る事ができた。そして、どのようなメカニズムでこの結果が生じたかは不明であったところ、本年の研究において様々な実験手法を用いた多角的なアプローチを行った結果、このメカニズムの一端が解明できた。特に、当初から関心のある脊髄後角の局所抑制回路に関して、I層およびII層外側ではGABAが重要であるが、II層内側より深部ではグリシンが重要であると報告したものが再確認でき、神経障害性疼痛のモデル動物の脊髄、青斑核、その投射系の細胞活動について薬理学的な検証も行えた。 実際の薬剤投与の例としては、Paw-pressureテストの実験において、機械的侵害刺激を動物の後肢に与え、逃避した時の圧を逃避閾値として算出することができた。その結果は、正常ラットの逃避閾値は200g程度であるところ、SNLラットでは神経切断後100g前後まで低下するというものであり、この実験でも、SNLラットの機械的痛覚過敏が薬理学的介入によってどの程度改善するかを観察することができた。 薬理学的前処置後の免疫組織学的実験では、PFAを用いてラットを潅流固定し、脊髄を取り出して形態観察用の切片を作成する手法を用いたが、それにより、青斑核の投射経路が検索でき、脊髄後角の抑制性介在ニューロンの役割についても示唆を得た。 今回の各種の実験により、末梢神経障害性の痛みでは下行性制御系の活動が重要である事が確認されたことは痛みメカニズムの解明に寄与したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
形態観察では、移植されたニューロンが実際に抑制性介在ニューロンとしての機能を発揮しているかどうかを調べることは困難である。脊髄は海馬や小脳等の中枢神経と異なり、神経回路網や個々のニューロンの役割については未解明な部分が多い。そこで申請者は以下のような工夫をこらした電気生理学的手法を用いて、マウスを用いた先行研究では調べられていない次の二つのことを明らかにする予定である。 第1段階として、移植したニューロンが実際にGABAを放出して、周囲のニューロンの興奮を抑制していることを確認する。まず蛍光顕微鏡下にVenusを発現するニューロンの周囲のニューロンを対象としてパッチクランプを完成させる。そして、Venusを発現しているニューロンの細胞体に刺激電極をあて、活動電位を発生させる。更にパッチランプ記録を行っているニューロンから抑制性シナプス後電流(IPSC)が観察され、それがGABA受容体の拮抗薬であるbicuculline(10 μM)によって消失すれば、記録しているニューロンが移植したニューロンからGABA作動性の入力を受けていることが確認できる。 第2段階として、GABA作動性の入力が移植したニューロンからの直接的な入力、つまりmonosynapticな入力であることを確認するために、高頻度刺激を行ってfailureが見られるかどうかでmonosynapticな入力とpolysynapticな入力を区別する。移植したニューロンがどのような情報を皮膚から受け取っているか(Aβ繊維を介する触の情報なのか、あるいはAδやC繊維を介する痛みの情報なのか)を調べるために、脊髄後根付きスライス標本を作製する。
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Research Products
(2 results)