2016 Fiscal Year Annual Research Report
藍藻の異常増殖が常態化する太湖の食物網解析と生物多様性維持機構の解明
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16H02747
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西村 修 東北大学, 工学研究科, 教授 (80208214)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 直幸 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (20285191)
坂巻 隆史 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60542074)
野村 宗弘 東北大学, 工学研究科, 助教 (70359537)
藤林 恵 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (70552397)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 必須脂肪酸 / 微小後生動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
湖沼などの閉鎖性水域において,後生動物が生きていく上で必要不可欠な必須脂肪酸(EFA)を合成するのは主として藻類であると考えられてきたが,研究代表者等の既往の研究で一部の原生動物がEFAを合成していることが明らかになった.藍藻の異常増殖が常態化する太湖においては,動物は藍藻から必須脂肪酸を摂取できないため,このような動物が食物連鎖において重要な役割を果たしている可能性がある.そこで本研究では太湖の現地調査を行い食物連鎖の解析,生物多様性の維持機構の解明を行っている. 本年度は,「必須脂肪酸を含まない餌を起源とする食物網において,後生動物が安定的に生存・繁殖を繰り返し,EFAを自ら合成し,生態系にEFAを供給するポテンシャルを有するか否か確かめる」ことを研究目的とし,後生動物Aeolosoma (アブラミミズ)を用いて室内実験を行った. 必須脂肪酸を含まない細菌を餌としたAeolosomaの培養において、3回の培養(各培養で個体数は3から5倍に増加)まで,安定的に個体数密度が増加したことが確認された。この時の動物個体内の脂肪酸を分析したところ.ω6系統ではリノール酸(18:2ω6)アラキドン酸(20:4ω6)が,初期のAE培地からもたらされる脂肪酸量を超えていた.これにより,Aeolosomaが必須脂肪酸量の少ない培地で増殖を繰り返す中で,必須脂肪酸の合成を行っている可能性が示唆された. 一方,ω3系統では,リノレン酸(18:3ω3)とドコサヘキサエン酸(DHA, 22:6ω3)が初期AE培地に含まれるが,ω3系のどの脂肪酸も検出されなかった.Aeolosomaはこの系列の脂肪酸は合成しないと考えられるが,より長期的なAeolosomaの培養が可能性かが今後の課題として残った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初太湖の現地調査において予定していたポスドク(中国人ポスドクを本研究費によって雇用する予定)の協力が、急遽学位取得に関わる問題発生のために平成29年5月まで得られないことが判明した.本研究遂行上、現地調査を安全にかつ円滑に進めるために当該ポスドクの参加は不可欠であるため、平成29年5月に太湖現地調査を延期して実施し、当面実験的検討を優先して進めることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ポスドクの雇用に関して発生した問題は解消しており、太湖現地調査を順調に進めている。平成28年度の太湖調査は1回にとどまったが、平成29年度は8月、10月、12月の3回の調査を行うことができた。また、優先して進めた実験的検討に関しては、原生動物のみならず微小後生動物による必須脂肪酸の合成の可能性も示唆される結果を得ており、当初の計画に従った研究が推進できている。今後は、必須脂肪酸を含まない様々な餌(細菌、藍藻類等)を用いて原生動物および微小後生動物を培養し、動物体内の必須脂肪酸の由来および合成速度の評価を行っていくとともに、継代培養を行って増殖のみならず再生産が可能であることを実証する。また太湖調査を継続し、藍藻の異常増殖が常態化する水環境での生態系の成り立ちを解析し、地球温暖化による藍藻類の優占化が生態系に及ぼす影響を考察する。
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