2017 Fiscal Year Annual Research Report
耐塩性蒸散促進樹種と耕作放棄農地を利用した塩害・湛水害対策用の植林システムの構築
Project/Area Number |
16H02764
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
江頭 靖幸 東京工科大学, 工学部, 教授 (70223633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 裕司 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (40361513)
高橋 伸英 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40377651)
菅沼 秀樹 成蹊大学, 理工学部, 研究員 (90447235)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 耐塩性樹種 / 塩害対策植林 / 湛水害対策植林 / 蒸散速 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は西オーストラリアでの森林伐採に起因する地下水アンバランスが原因となった塩害・湛水害への対策を念頭に、塩害・湛水害の生じた農場内の耕作放棄農地への耐塩性蒸散促進樹種の植林を提案するものである。Eucalyptus sargentii など耐塩性と高い蒸散能力を併せ持つ樹種を見いだしており、それらの塩害・湛水害条件下の生理特性定量評価を実施し、普及・一般化可能な対策植林システム設計を目指し、7つの実験・研究項目を設定している。 本研究の二年度目となる平成29年度には研究全体の基礎となる項目1(「1: 実際の塩害・湛水害による耕作放棄農地を用いた追加検討候補樹種のスクリーニング試験」)と2(「2: スクリーニングされた樹種の成長速度と蒸散量の密度・塩濃度依存性の定量評価」)、そして項目4(「4: 塩害・湛水害による耕作放棄農地の環境条件類型化」)のため、初年度に設定した新規の植林区画に、同じく初年度に現地業者(Chatfield Nursery www.chatfields.com.au)に生産を委託したEucalyptus sargentii、Eucalyptus occidentalis、Casuarina obesa の苗木を植林した。 項目2 のGranier センサー(樹液流センサー)のWickepinの既存植林実験区画内での設置については、昨年度のEucalyptus sargentiiにつづき、Eucalyptus occidentalis の植林地にもセンサーの設置を完了した。新規の植林区画とその周囲には新たに地下水位測定用の穴を現地業者に委託して掘削し、既存の測定孔と併せて地下水位の分布と変動を観測し、さらに追加の土壌サンプリングを実施して項目4 の分析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心的な実験課題である「1: 実際の塩害・湛水害による耕作放棄農地を用いた追加検討候補樹種のスクリーニング試験」のため、初年度に2カ所の植林サイトを設定した。いずれもクリーク沿いの塩害・湛水害による耕作放棄地であり、一つは既存の植林実験区画に近接したサイト(32°43'17.15"S、117°39'57.26"E)で、もう一つは植林された場所から独立したサイト(32°39'23.18"S、117°42'6.97"E)である。「独立サイト」は300m×150m程度のサイズで、「近接サイト」はその約10分の1の規模である。 29年度は両サイトに植林することを計画し、地下水位測定用の穴の掘削、昨年度からの苗木の準備を行っていた。植林に適する時期は6月ごろ(現地では秋から冬に向かう季節であり、冬の降雨が多いこの地域では植林後の天水を期待できるこの時期以外での植林は巧くいかないとされている)には植林の準備が整った。実際、「独立サイト」には計画通りの植林を行うことができた。 しかし、「近接サイト」ではサイト内での植林用の重機の運用ができなかったため、29年度の植林を見送ることとした。これは植林の直前に例年になく大きな降水があったため、サイト内の土壌がぬかるんでしまったことが原因である。ただし、前述の通り、「近接サイト」は「独立サイト」の10分の1程度のサイズであり、植林予定数も同じく10分の1程度である。また、「近接サイト」では近くに既存の植林区画が存在するため、その情報と併せて成長過程を補間できると考えられること、また、植林規模が小さいため30年度へ繰り越しても大きなコストはかからないと期待されることから、「近接サイト」への植林の30年度へのずれ込みの影響は深刻ではなく、計画全体はおおむね順調に推移していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度には前述した「独立サイト」に植林した樹木の活着状況を確認し、生存率と成長状況の観測を開始し、最終年度まで継続観測する予定である。29年度に造成と植林を断念せざるを得なかった「近接サイト」については30年度の6月をめどに造成と植林を行う予定で苗生産の準備を進めている。両サイトでの樹種・植林密度毎の生存率と成長状況の観測を年2回~3回の渡航でデータを収集し、随時解析し適宜発表する予定である。土壌の塩分、地下水の塩分、土壌水分と地下水位との関係をベースに項目4の土地条件の類型化をすすめ、必要に応じて項目3の人工気象室での測定を開始する。 項目2のおける樹液流測定に際して使用するGranier センサーについては、センサー製造手法、現地における設置の手順が顕著に改善したため、29年度で目標とするセンサーを全て設置することができたが、今後はデータの収集と解析、既設センサーのメインテナンスを継続して良質のデータを得る手法の確立に注力する。 実験項目1~4 で得られた結果を基に実験項目5~7 のシミュレーションや解析を実施する。研究成果を適宜論文等で発表し、最終年度にシンポジウムを開催するなど、成果の迅速な公開に努める。
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