2018 Fiscal Year Annual Research Report
入力データが不完全なアルゴリズムで重要となる乱化技術の研究
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16H02782
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩間 一雄 京都大学, 数理解析研究所, 研究員 (50131272)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 修一 京都大学, 学術情報メディアセンター, 准教授 (00303884)
玉置 卓 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40432413)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アルゴリズムの設計と解析 / 計算量理論 / 乱化アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
以下のテーマに関して成果を得た. (1)対数領域計算に関する下限の導出.P対NP問題の重要性に隠れてはいるが,対数領域(メモリ量が入力長の対数で十分)と多項式時間の計算能力の違いを明らかにすることも同様に重要な未解決問題である.我々は分岐プログラム(BP)と呼ばれる計算モデルと木状計算と呼ばれる具体的問題を利用してこの課題に挑み,BPが1回読みという制限を満たすなら確かに2つの階層の間に真の違いがあることを示した.この1回読みという制限はかなりきつい制限ではあるが,制限を外しても大きな改善はできなさそうであるいくつかの状況証拠も示している. (2)ソーティングにおける平均的計算量の解析.下限に極めて近い上限式をすでに発表しているが,それはあくまで漸近的な性質であって.今回は入力長がある程度の値(100程度)までの具体的計算量を求めた.その結果下限とほぼ同じ(1以内)の計算量の上限を導いた.なお,これはシミュレーションではなく,閉じた式にはできなかったが,あくまで解析結果である. (3)安定マッチングの発展形である3次元版に対する解の存在性の解析.通常の2次元版の素直な発展形である本問題はクヌースによって70年代に提唱された.2次元の場合と同様に全ての例題に対して安定マッチングが存在することが強く予想されているが,誰も証明に成功していない.我々は平均的例題に対しては高い確率で本命題が成立するのではないかと予想し,実験も含めて様々な角度から検討した.その結果我々の予想に対して再検討の余地があることを示すいくつかの理論的および実験的な結果を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記(1)に関しては分野でトップに位置づけられる米国ACM学会のトランザクションに論文を発表することができた.また(2)に関しては,計算量理論及び情報科学の教育問題に関する第一人者であるスイス連邦工科大学のホロンコビッチ教授の還暦を祝う"Adventures Between Lower Bounds and Higher Altitudes"がスプリンガーのLNCSシリーズから出版され,招待論文として発表された.なお,理論計算機科学を創出したパイオニアの一人と言われているフランスのニバ博士の死去にともなうTheoretical Computer Science誌の特集号からも関連の論文が招待されていて印刷中である. (3)に関しては未だ論文発表には至っていない.しかし,従来多くの研究者が予想していた安定マッチングが常に存在するという肯定的な結果に対し,いくつかの重大な疑問点が出てきた.これは安定マッチングが存在するための比較的タイトと思われる十分条件に対し,その数値実験の結果出てきたものである.従来の方向性に対する重大な警告と受け止めており,その意味で大きな成果であると受け止めている.
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Strategy for Future Research Activity |
上記(3)に決着をつけることが最大の目標である.方向としては,安定マッチングが存在しない例題が存在することを証明することである.それは当然そのような例題を一つ発見すれば終わりであるが,それは今までも多くの研究者が試みて失敗している.我々は,具体的例題を示すことは諦め,単にその存在性のみを確率的手法で証明することを目的とする. さらに新しい具体的テーマとして,近年特に重要性を増しているデータのプライバシー保護を取り上げたい.近年そのための代表的技術としてランダムノイズの付加が提案されているが,その安全性の検証に関しては未だ多くの課題を残している.SNS等での人間関係は全てグラフによって表現される.そこでの特定個人間の友達関係はもっとも重要なプライバシーであり完璧な保護が求められる.一方で,グラフ全体に対する統計情報は様々な場面で有用になるので,一定の条件の元で情報提供されるべきであると考えられている.この過程でプライバシーの侵害が生じないように様々な観点から解析を行う.
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