2017 Fiscal Year Annual Research Report
場所細胞活動の操作によるエピソード記憶の想起メカニズムの解明
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16H02840
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
高橋 晋 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (20510960)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤山 文乃 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (20244022)
苅部 冬紀 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (60312279)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 場所細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、動物が道に迷い静止した際に、海馬の場所細胞が移動中の約10倍速の早送りモードで再活性化される「リプレイ」現象に着目し、そのリプレイと、そこで表現されるエピソード記憶の因果関係を解明することを目指す。それは、独自の電気生理学的記録法に光遺伝学を活用した神経刺激法を組み込むことで、エピソード記憶を想起するメカニズムを、従来不可能であった、神経細胞レベルで実証することでもある。 場所細胞活動のリプレイを正確かつリアルタイムに検出するには、時間的に確定性を持った計算処理が必要不可欠である。代表研究者は、これまでにリアルタイムに神経細胞活動を分離し、その活動パターンを検出するシステムを開発した経験がある。本年度は、その従来システムを改変することで、イベント検出から6ミリ秒以内で反応する処理システムを構築した。 リプレイを検出するため、意思決定が必要となる迷路課題をラットに訓練した。課題遂行中に、その海馬CA1野にある場所細胞から、初年度に開発した大規模計測装置を活用することで、複数の神経細胞活動を長時間にわたり記録した。海馬CA1野の錐体細胞層に配置した電極から記録する局所脳波から、120Hz周波数帯に現れる鋭波の立ち上がりを検出することにより、リプレイの発生を検出し、リプレイを事前予測する手法の開発に着手した。また、リプレイを操作するための予備実験として、パルバルブミン陽性の介在細胞を興奮させ、その抑制作用により間接的に場所細胞を操作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
場所細胞活動のリプレイを正確かつリアルタイムに検出するには、時間的に確定性を持った計算処理が必要不可欠である。代表研究者は、これまでにリアルタイムに神経細胞活動を分離し、その活動パターンを検出するシステムを開発した経験がある。本年度は、その従来システムを改変することで、イベント検出から6ミリ秒以内で反応する処理システムを構築することができた。更に、リプレイを検出するため、意思決定が必要となる迷路課題をラットに訓練し、その課題遂行中に、その海馬CA1野にある場所細胞から、初年度に開発した大規模計測装置を活用することで、複数の神経細胞活動を長時間にわたり記録することができた。海馬CA1野の錐体細胞層に配置した電極から記録する局所脳波から、120Hz周波数帯に現れる鋭波の立ち上がりを検出することにより、リプレイの発生を検出し、リプレイを事前予測する手法の開発に着手することができた。また、リプレイを操作するための予備実験として、パルバルブミン陽性の介在細胞を興奮させ、その抑制作用により間接的に場所細胞を操作することができた。以上のように、本研究は当初計画通りに実績をあげることができている。そのため、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で解読するリプレイ中には、場所細胞が10倍速の早送りモードで再活性化されているため、1ミリ秒以内で全ての処理を完了させる必要がある。そこで今後は、柔軟なシステム変更と確定性を兼ね備えるFPGA(field programmable gate array)上に処理システムを実装する。そして、そのシステムを活用することで、リプレイ中に表現されるエピソードに関する記憶をベイズ推定法により解読し、光刺激により脳へフィードバックさせる一連の手順を1ミリ秒以内に完了させる。 目標とするエピソードを表現するリプレイを、リプレイ現象の開始直後に予測することで、そのリプレイを消去あるいは強化することができる。そこで、リプレイが表現するエピソードを事前に予測するために、機械学習法を活用する。予測については、線形の行列計算によるハードウェア実装が可能なサポートベクターマシン(SVM)を第一候補とするが、予測性能が不十分であれば、最新の深層学習法(ディープラーニング)を外部の大型計算機に実装し、その予測結果から予兆となる特徴を抽出する。 課題遂行中に、海馬CA1野に加えて、CA3野の場所細胞から、複数の神経細胞活動を長時間にわたり記録する。脳波の120Hz周波数帯に現れる鋭波の立ち上がりを検出することにより、リプレイの発生を事前に予測する。そして、その際の場所細胞集団の活動をベイズ推定法により解析することにより、リプレイ中に場所細胞によって表現されるエピソードの内容を解読する。操作されたリプレイと、その操作によって誘導された動物行動との因果関係を分析する。最後に、様々なタイミング、頻度等でリプレイを操作することにより、エピソード記憶を想起するメカニズムについて、認知神経科学と神経生理学の視点から総合的に考察する。
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Research Products
(8 results)