2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the novel radioprotection mechanisms in radiotolerant tardigrades
Project/Area Number |
16H02951
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國枝 武和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10463879)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | クマムシ / 放射線耐性 / DNA防護 / 酸化ストレス / クロマチン構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、高い放射線耐性を持つヨコヅナクマムシを材料に新規な放射線防護メカニズムの解明を目指している。本年度は、おもにクマムシに固有な新規DNA防護タンパク質であるDsupについてその防護メカニズム、性状、細胞に与える影響について解析を進めた。Dsupは放射線照射によって間接的に生じる酸化ストレスからDNAを防護することがヒト培養細胞において示されている。Dsupが抗酸化物質として機能する可能性を検証するためにリコンビナントタンパク質を用いて in vitro で抗酸化活性を測定したが、顕著な活性は認められなかった。また、酸化ストレスの発生源となる鉄イオンとの結合性についても検討したが、こちらも検出されなかった。次にDsupが物理的障壁としてDNA防護に寄与している可能性を考え、DNAへの結合様式を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて解析した結果、DsupがDNAを連続的に覆うように結合している様子が観察された。DsupはDNA非存在下では主に単量体で存在したことから、DNAと結合したDsupは構造を変化させ隣接部位に次のDsupを呼び込むことで連続的な結合をもたらしていることを示唆した。また、領域欠失Dsup変異体を用いることでDNAへの連続的な結合に必要なドメインを決定した。さらに同様の系を用いてDsupがクロマチンの凝集をもたらすこと、この凝集にはDNA結合領域が必須であることを示し、DsupがDNAとの結合を介してクロマチン凝集を促進することを示した。こうしたDsupの結合様式がDNA防護をもたらす分子機構の一端と考えられるが、DNAの被覆や凝集は生理的な転写や複製の障害になることが予想される。一方、先にヒト培養細胞から樹立したDsup強制発現細胞株は増殖速度の低下は観察されていない。この齟齬の原因を解明するため、Dsup発現細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した結果、クロマチン構造、転写、RNA代謝に関わる遺伝子の発現が亢進していることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主要な対象である新規DNA防護タンパク質であるDsupについて、開始時に想定されていた2つの可能性、(1)酵素活性などによるストレスの軽減と(2)物理的な障壁としての防護のうち、後者を支持するデータの蓄積が進み、DNA結合様式やクロマチン構造への影響などDsupによる防護メカニズムの一端が順調に解明されている。また、Dsup発現細胞の生育に問題が生じていない原因の1つとして、細胞の発現プロファイルの変化を見出した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年の結果から、Dsup はDNAを覆うことで防護すると同時に、細胞がクロマチンや転写関連遺伝子群の発現を亢進することで生命活動を維持していることが示唆された。そこで、Dsupについてはクロマチンの高次構造に与える影響をHi-Cなどの技術を活用することで詳細に解析する。
|