2016 Fiscal Year Annual Research Report
鯨・マグロ類多食集団における高濃度メチル水銀曝露のリスク評価と生体防御機構
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16H02972
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Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
中村 政明 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (50399672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡山 千早 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (30274814)
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 部長 (60344420)
植田 光晴 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (60452885)
山元 恵 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (70344421)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メチル水銀 / 健康影響 / 小児発達 / 生体防御機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
クジラ、イルカなどの海洋哺乳動物の中には、マグロ、カジキなどの大型肉食魚を上回る水銀濃度を示すものが知られている。和歌山県東牟婁郡太地町は伝統的に捕鯨を主要産業としており、食文化として鯨肉食が根づいていることから、高濃度メチル水銀曝露集団の一つと考えられる。これまで我々が太地町で実施した詳細な神経内科学的検診では、成人へのメチル水銀の健康影響はみられなかった。本研究の目的は、神経内科学的検診参加者153名の血漿サンプルを用いて、神経内科学的検診で明らかな健康影響がみられなかった理由を解明することである。今年度は、太地町住民の血漿のうち、メチル水銀の生体内動態に影響を及ぼし得る因子(糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害、癌、喫煙などを持つ人)のない毛髪水銀高値の(男性2名・女性2名)と低値(男性2名・女性2名)の血漿を用いて二次元電気泳動を行った。電気泳動後、蛋白質染色を行い、スポットシグナル濃度を算出し、高値群と低値群で統計解析を行ったところ、高値群で有意に低値群より濃度が高いスポットを三つ検出することが出来た。 さらに、メチル水銀は脳の発達期にある胎児に特に感受性が高いことが知られているため、メチル水銀曝露による小児発達に及ぼす影響を明らかにするために、太地町および近隣の那智勝浦町において、小学1年生47名(太地町:14名;那智勝浦町:33名)を対象に以下の調査を実施した。1)毛髪(現在のメチル水銀曝露の指標)採取、臍帯(胎児期のメチル水銀曝露の指標)収集小児、2)の身長・体重・血圧測定、3)保護者から既往歴等の聴取、4)食事調査、5)小児神経機能評価:小児神経診察、 WISC検査、視覚ノイズ発生型持続的注意集中力検査、6)神経生理学検査:色覚検査、心電図QTc時間、R-R インターバル、聴性脳幹誘発電位(ABR)、視覚誘発電位(VEP)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所有している太地町住民の血漿のうち、メチル水銀の生体内動態に影響を及ぼし得る因子(糖尿病、高血圧、癌、喫煙などを持つ人)のない毛髪水銀高値の(男性2名・女性2名)と低値(男性2名・女性2名)の血漿を解析した。Multiple Affinity Removal Spin Cartlidge human-7を用いた豊富に存在する蛋白質の除去とZip-Tip C18を用いた蛋白質の脱塩・濃縮を行った後に質量分析装置による解析を行ったが、同定できた蛋白質の種類が少なかった。そこで、解析方法を二次元電気泳動に変更して再解析を実施した。電気泳動後、蛋白質染色を行い、スポットシグナル濃度を算出し、高値群と低値群でスポットの濃度について統計解析を行ったところ、P < 0.2の条件で、高値群で発現量が高いスポットを9個、低値群で発現量が高いスポットを5個検出することが出来た。 メチル水銀曝露による小児発達への影響調査では、今年度はほぼ目標の50名に近い小学1年生47名(太地町:14名;那智勝浦町:33名)に対して実施できた。検診前の保護者説明会、保護者への結果報告会を実施し、太地町と那智勝浦町の保護者および教育委員会と信頼が得られた結果、平成29年度も小児検診を継続できることになった。 以上より、二次元電気泳動によりメチル水銀曝露によって変化する候補蛋白質が検出できたこと、太地町での小児検診が順調に行われていることから、研究はおおむね順調に行われていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はメチル水銀曝露によって変化する血漿蛋白質の絞り込みを行う。具体的には、昨年度の二次元電気泳動で検出できた毛髪水銀濃度高値群で低値群より発現量が高いスポット5個と低値群で高値群より発現量が高いスポット9個について質量分析装置を用いて、メチル水銀の毒性を修飾する候補蛋白質の同定を行う。同定できた候補蛋白質がメチル水銀と関連しているかどうかを確認するために、候補蛋白質の抗体を用いてELISA による153 名の血漿の蛋白質濃度を測定する。最終的には、水銀濃度と候補蛋白質濃度との間に相関を認めた蛋白質をメチル水銀の毒性を修飾する候補蛋白質として絞り込みを行う。 太地町と教育環境を含めた生活環境が似ている近隣の那智勝浦町の50名の小学生1年生および保護者を対象に下記の調査を行うことで、メチル水銀曝露が小児発達に及ぼす影響の有無を明らかにする。①食事調査、毛髪水銀濃度測定による現時点でのメチル水銀曝露状況の把握、②臍帯中のメチル水銀濃度測定による胎児期のメチル水銀曝露状況の把握、③小児神経診察、WISC-Ⅲ知能検査、連続遂行検査(CPT)による小児の神経発達の評価、④小児神経生理学検査:先行研究のフェロー出生コホート研究でメチル水銀曝露との有意な量-反応関係が観察されたR-R インターバル、ABR に加えてR-R インターバルと関連性がある心電図QTc 時間、およびブラジルのグループによりメチル水銀中毒の初期症状の可能性があると報告された色覚検査。
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