2017 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of characteristics of iron elution from fertilizer using steelmaking slag for restoring seaweed beds in coastal areas
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16H02985
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 光夫 東京大学, 海洋アライアンス, 特任准教授 (30361512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
劉 丹 有明工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (60390530)
松尾 基之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10167645)
岩井 久典 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70733765)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境資材 / 沿岸環境保全 / 環境技術 / 環境分析 / バイオマス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、1)溶出条件等の違いにおける鉄溶出特性変化に関する基礎的検討、2)パイロット試験を基にした鉄溶出挙動の検討、3) フィールドにおける鉄溶出過程の検討と鉄の存在形態に関する調査の3テーマで研究を実施した。 1)では、前年度に実施した室内鉄溶出試験結果後の製鋼スラグについて、鉄溶出時の酸化還元状態の違いによる鉄存在形態に関する知見を得るために、メスバウアー分光法にて分析を行った。また前年度の結果に基づいて、低DO濃度(2 mg/L)と高DO(15 mg/L)の2条件下で、室内鉄溶出試験を実施した。試料は、鉄分供給ユニット、製鋼スラグのみ、堆肥のみの3種類に加え、他の材料の溶出特性をみることでスラグと堆肥の特性をより明らかにするために、リモナイト(褐鉄鉱)も試料として用いた。その結果、どの試料についても低DO濃度(還元状態)の方が鉄溶出量は多いことが示された。 2)については、北海道増毛町と長崎県対馬市で実施した水槽試験で用いた試料中の有機物および微生物層の変化について分析・解析を進めた。特に試料中のフミン酸を指標としたところ、堆肥のみの条件では、試料中のフミン酸の構造及び含量は、初期試料から大きな変化は見られなかった。その一方で、堆肥と製鋼スラグと混合したもの(鉄分供給ユニット)ではフミン酸含量が著しく減少し、微生物由来の脂質が多量に検出された。 3)に関して、初年度より開始した北海道増毛町での海域・河川環境調査を中心に研究を進めた。調査は5回にわたって実施し、2016年7月の調査開始から1年半あまりの水質データ(鉄・栄養塩)を蓄積することができた。その結果、特に河川水の全鉄について、7河川の中で2河川が期間を通して高い傾向があることが示された。2河川の流域には水田が広がっており、流域の土地利用状況が、河川環境に影響を与えていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)については、メスバウアー分光法によって、製鋼スラグ中の鉄存在形態への海水中の酸化還元状態の影響について、データを蓄積することができた。また新たな鉄溶出試験によって、鉄溶出への還元状態の優位性が改めて示されたほか、リモナイト試料との比較によって鉄分供給ユニットからの鉄溶出特性に関する新しい知見を得ることができた。 2)に関しては、水槽試験に用いた試料中のフミン酸の構造解析を終えることができた。分光特性の変化から、堆肥と製鋼スラグを混合した条件でフミン酸の分解が進むこと、さらに微生物活動が活発になることをフミン酸の微細構造変化から明らかとなった。 3)において、河川による鉄(全鉄)濃度の違いが確認され、それが流域の土地利用形態に起因すると示唆されたことは、陸域からの鉄供給と海域環境(藻場分布)との関係性を評価する上で大きな成果といえる。研究計画通りに調査を進められただけでなく、鉄分供給ユニット設置にあたって最適な海域環境を評価するための指標を考える上でも重要な結果が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)~3)について、以下の方策で研究を推進する。 1) 溶出条件等の違いによる鉄溶出特性変化に関する基礎的検討 これまでの鉄溶出試験結果により、海水の酸化還元状態(溶存酸素濃度)や有機物が鉄溶出速度やスラグの鉄存在形態に与える影響についての多くのデータが得られた。最終年度は、実験結果の総合的な考察を行い、それを踏まえて鉄溶出促進のために最適な溶存酸素濃度条件を得るために、改めて溶出試験を行う。特にメスバウアー測定の頻度を増やし、スラグ表面状態の経時変化に関するより詳細なデータの蓄積を行う。 2) ユニット中の微生物種の解析をさらに進める。具体的には、堆肥及び製鋼スラグ自体から脂質を抽出し、その脂質組成から活性化された微生物相を検討する。また、製鋼スラグ表面の鉄存在形態(変化)の分析結果に基づいてスラグ表面で起きていた酸化還元反応も追跡することで、ユニットからの鉄溶出に及ぼす製鋼スラグ、有機物、微生物の関係性を明らかにすることを目指す。 3) 実証試験で埋設されたユニット中の鉄の存在形態と微生物相の変化の解析を進め、1)と2)の結果と合わせて、ユニットからの鉄溶出メカニズムの解明を目指す。また、河川・海域環境調査については2018年夏までに2年間の調査が終了するが、鉄、栄養塩(窒素・リン)データに加え、有機物についても分析・解析を進め、水質環境と藻場分布との関係性を考察する。そして1)、2)の結果と合わせ、ユニットからの鉄溶出特性と実海域の鉄の挙動の関係性を評価し、最適なユニット設置方法の確立につなげることを目指す。
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Research Products
(4 results)