2017 Fiscal Year Annual Research Report
アゾベンゼン修飾膜の光照射水透過・海水淡水化に関する研究
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16H03002
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
藤原 正浩 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (90357921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増田 善雄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究部門付 (10358004)
松川 真吾 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (30293096)
金久保 光央 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (70286764)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水浄化 / 海水淡水化 / 膜分離 / 色素 / 太陽光 / 膜分離 / 再生可能エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者が見出したアゾベンゼン修飾多孔質膜を用いた光照射による水浄化・海水淡水化技術の、高性能化・低コスト化を目指して研究を実施した。コスト、耐久性や機能性等を勘案し、多孔性疎水性膜はPTFE膜を基本的に使用することで研究を進めた。また、アゾベンゼン以外の色素へと展開し、太陽光をより効率良く利用できる色素修飾膜を研究した。その結果、アゾベンゼンであるディスパースレッド1(DR1)が吸収できない波長600nm以上の可視光を吸収できるディスパースブルー14(DB14)も有効であることを見出した。こうして得られたDR1およびDB14修飾PTFE膜上に蒸留水を置き、上部よりソーラシュミレータによる人工太陽光を照射した場合、共に水は膜を透過した。次に、DR1とDB14の両方を同時に修飾したPTFE膜を作製した。この膜の拡散反射スペクトルは、この膜が波長350~800nmまでの可視光を万遍なく吸収できることを示しており、この膜を用いた蒸留水の光照射膜透過は、それぞれ単独の修飾膜よりも2倍近く水が透過した。また、海水のミネラル分を再現した人工海水を用いた膜透過実験では、透過した水の電気伝導率は十分に低く、淡水化(塩濃度は0.01%未満)できることも見出した。 アゾベンゼンの光異性化に関する微細解析では、分析に適したアゾベンゼン修飾材料、試料管や条件等を選定し、アゾベンゼンの光異性化等による近傍分子の運動性を解析できはじめている。 上記の二つの色素を修飾した膜による海水淡水化において、想定実用化システムでの太陽光エネルギー照射下(1SUN)のエネルギーの利用効率は約60%であった。これは、水の蒸発に利用される気化熱等を基準とする計算法であるが、システムの構築と実用化の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が見出した色素修飾疎水性膜を用いた光照射による水浄化・海水淡水化技術を大幅に進展させるには、太陽光の可視光を全て利用できるように改良する必要がある。そのため、短波長可視光を有効に吸収できるアゾベンゼンと共に、長波長可視光を吸収するアゾベンゼン以外の色素類の利用が必須となる。2016年度ではアゾベンゼン化合物ではないディスパースブルー14(DB14)色素も有効であることを確認している。また、短波長可視光を強く吸収するアゾベンゼン色素であるディスパースレッド1(DR1)と長波長可視光を吸収するDB14をPTFE膜へ同時に修飾することに成功していた。この膜の拡散反射スペクトルから、この膜が全可視光を吸収できることが確認できた。この二つの色素を同時に修飾した膜を用いた可視光照射下での水の膜透過量は、単独の修飾膜の2倍程度にまで増加した。また、ソーラシュミレータによる人工海水の脱塩にも成功した。特に、混合修飾膜の水の膜透過性能は、ソーラシュミレータの場合に高かった。これは、地表の太陽光エネルギーが最も強い波長500nm近辺の光をDR1が、600nm以上の長波長可視光はDB14がそれぞれ有効に吸収するためであると考えられる。その際の太陽光エネルギーの利用効率も最高60%程度と高いものであった。 光照射下におけるアゾベンゼンの光異性化挙動や近傍にある分子の運動をNMR法で検出する試みでは、測定用のアゾベンゼン試料、試料管や装置、またアゾベンゼンの挙動のプローブ分子等の探索を進めており、2017年度の研究では、それらの知見を用い、微細な挙動に関する観測ができつつあり、この指針の元、新しい色素や混合系をも対象として引き続き検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
2016~2017年度の研究で見出した異なる波長の可視光を吸収できる混合色素修飾PTFE膜を利用した光照射による水浄化・海水淡水化技術をさらに発展させる。2017年度では全可視光を吸収できるDR1とDB14の混合修飾膜によって、水の膜透過性能を向上させることに成功している。2018年度では、太陽光に多く含まれる近赤外線も有効に吸収できる色素を探索し、地表に届く太陽光を高効率で吸収・利用できる膜を創出し、当該膜による水浄化、海水淡水化を研究する。また、修飾する色素の組成の最適化も研究する。太陽光のエネルギー強度は波長により異なり、波長400~600nmはエネルギーが特に高い。この光エネルギーを無駄なく吸収することは高性能膜の必須条件となる。一方、長波長可視光と近赤外線は、エネルギー強度は高くないが、波長域は広く、また熱への変換を行いやすい光でもある。これら様々な特性を持った太陽光を万遍なく効率的に利用できる色素や修飾膜を探索する。 一方、疎水性膜上では水は水玉のようになり、膜との接触面積が低下し、膜透過量が低下する。色素修飾膜の利点は、光エネルギーを吸収し水を蒸発させる色素が膜内や膜近傍にあり、吸収したエネルギーを水の気化に効果的に利用できることにある。そこで、処理する水と疎水性膜との接触面積を向上させるための、色素修飾膜のシステム構成の改良も試みる。これらの研究を通じて、高性能かつ実用性の高い太陽光利用による水浄化・海水淡水化の基本技術を確立する。同時に、海水淡水化の想定実用化システムについては、水の蒸発挙動と共に膜の利用方法等も含め、実用化に有効な想定システムを提案する。 アゾベンゼンの光異性化に関する解析では、2016~2017年度の結果を元に、アゾベンゼン分子の直接的運動や近傍のプローブ分子の運動に関し、新しい色素や混合系も含めてその微細な運動性を解析する。
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Research Products
(10 results)