2017 Fiscal Year Annual Research Report
Social Acceptance of High Level Nuclear Waste Disposal Facilities
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16H03010
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
松岡 俊二 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (00211566)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
師岡 愼一 早稲田大学, 理工学術院, 特任教授 (10528946)
勝田 正文 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20120107)
松本 礼史 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50294608)
黒川 哲志 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90268582)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バックエンド問題 / 社会的受容性 / 欠如モデル / 文脈モデル / 原子力政策 / 地層処分 |
Outline of Annual Research Achievements |
第2年次の平成29年度(2017年度)は、バッックエンド問題を国際的議論の動向から探求することとし、2018年2月にフィンランド、フランスの地層処分政策の調査を行なった。主な調査結果は以下である。 フィンランド国民の多くは地層処分方法に懐疑的であり、地層処分についてもよく分からないが、実施機関のTVO社や規制組織のSTUKの高い専門的能力や真摯で公正な姿勢に対する社会的信頼に支えられて最終処分地のオルキルオト原発敷地内の立地決定が可能となった。その意味でフィンランドは20世型紀の社会的信頼に依拠したモデルといえる。 フランスは1987年の4ヶ所の地層処分候補地の公表による地域の反対運動の激化を受け、1990年2月の首相声明により現地調査の一時中止から、1991年のBataille法による仕切り直しと、2度の国民的討論を経て、可逆性のある段階的な柔軟な地層処分という方向を模索している。 フランスのReversibilityの定義は、2016年法により技術的回収可能性(Retrievability)だけでなく、社会経済状況の変化や将来世代の政策決定への参加権の保障などの適応可能性(Adaptability)も重要な原則としており、第1原則がAdaptability、第2原則がRetrievabilityといわれている。フランスのReversibilityの理解は、フィンランドや日本の建設期間終了までの技術的回収可能性の確保という技術主義的なReversibilityの理解とは大きく異なる。坑道閉鎖をしない地層処分は、本来の地層処分の最大のメリットであった埋め戻した後は人間社会の介入なしに処分地を放置できるというメリットがなくなり、限りなく地表あるいは地下浅部における暫定保管(enduring surface storage)にちかづくことを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1年次(2016年度)の研究活動としては、外部専門家などを招聘した合計7回の研究会を開催 し、国内調査として青森県六ケ所村の核燃料サイクル関連施設、青森県大間町の大間原発および大間原発建設差止め訴訟をしている函館市、むつ市の使用済み燃料備蓄センター、北海道幌延町の幌延深地層研究センター、茨城県東海村の三菱原子燃料東海工場、岐阜県瑞浪市および土岐市の東濃地科学センターの立地経緯に関する調査研究を行い、社会的受容性論の観点からそれぞれケースの立地受入と立地反対の社会的メカニズムについて検討した。また、分析フレームの検討としては、欠如モテデルと文脈モデルの双方の特性と限界を踏まえた、あるいは2つのモデルを包摂し、止揚しうる社会的受容性モデルの研究開発が課題であり、2017年3月末にまとめた研究成果である松岡(2017)「原子力政策におけるバックエンド問題と科学的有望地」では、こうした新たな方向性を試みた。 第2年次(2017年度)では、第1年次の国内調査と社会的受容性モデルの研究を踏まえ、より幅広い観点からバックエンド問題を検討するため欧州調査を実施した。また、3回の公開研究会、6回のタスクフォース研究会、1回の学術シンポジウムを開催した。欧州調査から、今後の日本のバックエンド問題のモデルとしては、20世紀的な信頼に基づくフィンランド・モデルではなく、多様な選択肢に基づく国民的議論というフランス・モデルが参考になると考えられる。特に、可逆性(Retrievability)の議論は、福島原発事故後の日本の状況では大きな位置を占めてくるものと考えられる。 最終年度(2018年度)では、第1年次の国内調査と第2年次の欧州調査を総括し、バックエンド問題における社会的受容性と可逆性との関係としてまとめることを予定しており、研究の進捗状況は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
バックエンド問題の解決策としては国際的に地層処分が試みられてきたが、地層処分施設の立地を正式に決定し、建設着工したのはフィンランドだけであり、多くの国の地層処分地選定プロセスは進んでいない。2000年にHLW地層処分の枠組みを定めた最終処分法を制定した日本でも、立地選定プロセスの第1ステップの文献調査にも着手できていない。2011年の福島原発事故の原子力政策をめぐる社会状況を踏まえると、2000年の最終処分法改正も含めた制度的枠組みの再設計(Redesign)が必要ではないかと考えられる。 最終年度(2018年度)では、第1年次の国内調査と第2年次の欧州調査を総括し、秋の環境経済・政策学会(上智大学)で企画セッションを行い、バックエンド問題への社会的アプローチのRedesignのための基本的視点について議論する予定である。Redesignの基本的視点として、従来の科学技術社会論におけるリスク・コミュニケーション研究で議論されてきた欠如モデル(Deficit Model)と文脈モデル(Context Model)との二項対立を止揚するために新たに研究開発した社会的受容性モデル(Social Acceptance Model)について報告する。社会的受容性モデルを構成する4つの要素(技術的・制度的・市場的・地域的受容性)の関係性を、日本における地層処分関連施設の立地プロセスから分析するとともに、フランスなどにおける地層処分と可逆性(Reversibility)をめぐる議論に注目し、HLW管理政策における社会的受容性と可逆性について考察を深めたい。 以上の3年間の活動の総括として、2019年3月には第8回原子力政策・福島復興シンポジウムを開催するとともに、研究成果を『高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分をめぐる社会的受容性と可逆性』といった書籍出版を計画する。
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