2017 Fiscal Year Annual Research Report
コンテキストベースの問いが駆動する21世紀型科学教育実践モデルのデザイン
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16H03063
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
中山 迅 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (90237470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
猿田 祐嗣 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター基礎研究部, 部長 (70178820)
鈴木 誠 北海道大学, 高等教育推進機構, 教授 (60322856)
松原 憲治 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター基礎研究部, 総括研究官 (10549372)
山本 智一 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (70584572)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 文脈ペース / 科学教育カリキュラム / 科学教育実践モデル / 問いベース / 教員養成 |
Outline of Annual Research Achievements |
主体的で協働的な学びによって,チームで課題に取り組み,解決する能力としての「協働的問題解決能力」や,「認識論的知識」に基づく科学的探究能力を育成することが急務とされるが,日本の児童・生徒にはそれらが十分ではないことが明らかになっている。そこで,本研究は,科学的な学習内容を日常生活や社会と結びつける文脈を設定し,それを系列化した「問い」が児童生徒の学習を駆動するような理科授業実践モデルの開発を行うことを目的としている。 このため,過去のTIMSS理科論述回答のデータを対象として,文脈の観点を導入して二次分析を行い,国際調査において児童生徒に求められている理科論述能力の特徴を明らかにしようとしている。中でも,アーギュメントスキルに注目した分析によって,これまで見落とされていた日本の児童・生徒の思考の特徴を探りつつある。 また,近年ますます盛んになりつつあるSTEM教育に注目し,そこで示されている統合の度合いの考え方を援用することで,資質・能力を育成する教科横断的な学習の在り方について考察を進める。さらに,文脈ベースの科学教育が進んでいるフィンランドの教育課程について,教科書や入学試験の分析を通して特徴を明らかにし,それを日本で実施可能な授業実践モデルに生かす試みにも取り組む。 より現実的な教育実践レベルの取り組みとしては,熟達教員による理科授業における「問い」の分析や,「文脈的な疑問と科学的な問題解決の入れ子構造の理科授業」のモデル」に基づいた学生による模擬授業や小中学校現場での試行的な授業実践を通して,現行の学習指導要領の範囲内で実施可能な現実的な実践モデルの構築も行う。 このような取り組みによって,現在の理科授業を改善しつつ,文脈的な問いが学習を駆動し,児童生徒が能動的に概念を構成する現実的な実践モデルの実現を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
21世紀を生き抜くために必要な科学教育の実践を通して育成される児童生徒の学力を把握するために実施されたTIMSS2015データの二次分析を行った。その結果,義務教育段階における我が国の学力の学校間格差は非常に小さく,1990年代以降,その傾向は一貫して継続していることが明らかとなった。また,我が国における資質・能力の育成を重視する教育課程について,STEM教育の視点から考察し,論文として発表した。これにより,資質・能力を育成するための教科横断的な学習においてSTEM教育の統合の度合いなどの知見が貢献できること,また,その具体的な学習方略として教師の役割と問いの例を示すことができた。 フィンランドの教育については,フィンランドで最も採用されているWSOY社の中学理科教科書2冊に着目し,その練習問題をすべて取り出し,中山・猿田の分類,及び「フィンランド7つのコンピテンス」による分類の両面からどのような資質を問うているのか分析を試行中である。 問いベースの授業については,中学校の教科書分析から得られた問いの種別をもとに,中学校理科の熟達教師の授業の発話分析を実施した。その結果,教科書分析ではほとんどないとされていた「方法」の問いを多く用いて探究方法を明確にしていることや,Yes-Noクエスチョンを多く用いて,生徒の理解を明確にしていることが明らかになった。 文脈ベースの授業モデルについては,「文脈的な疑問と科学的な問題解決の入れ子構造の理科授業」のモデルを提唱し,このモデルに基づく小学校教員養成系の授業における模擬授業を学生に実施させ,Webベースの相互評価を実施した。その結果,授業に対する学生の満足度が高く,提案している文脈ベースの小学校理科授業の要素に対する理解が促進されることが示唆された。小中学校の教育現場における,この授業モデルに基づく理科授業実践については試行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,文脈の観点を導入して過去のTIMSS理科論述回答のデータの二次分析を行い,国際調査において児童生徒に求められている理科論述能力の特徴を明らかにすることにより,今後の科学教育の改善に資する情報を得ることを目指す。その際に,これまでに試みてきたアーギュメントスキルに基づく分析をより多くの問題に対して実施し,これまで見過ごされていた日本の児童生徒の科学的な試行と論述の弱点を探り出す。STEM教育については,そこで示されている統合の度合いの考え方を援用することで,資質・能力を育成する教科横断的な学習の在り方について考察をさらに進めていく。 フィンランドの教育については,昨年度と本年度の結果を整理すると同時に,現地に出向き,教科書出版関係者とコンタクトしながら,問いを設定する意図や問題点について調査する準備を具体化して実施する予定である。その際,大学入学資格試験の問いとコンピテンスとの関係も科目を絞って調査することを意図している。 問いベースの授業をいっそう効果的なものとするため,熟達教師の理科授業の発話分析をさらに進め,教科書には含まれていない問いの特徴を明らかにして,今後提案する理科授業モデルに反映させる。 文脈ベースの授業モデルについては,「文脈的な疑問と科学的な問題解決の入れ子構造の理科授業」のモデルに基づく小学校教員養成系の授業における模擬授業を継続実施し,Webベースの相互評価を通して問題点を明確にして,さらに改善を進める。そして,その知見を反映した小中学校の教育現場における,この授業モデルに基づく理科授業実践についても試行を重ねる。
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