2017 Fiscal Year Annual Research Report
共培養細胞チップを利用した即効性抗うつ薬理活性物質の探索
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16H03162
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 脳神経疾患 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / ナノバイオ |
Outline of Annual Research Achievements |
2000年に即効性の抗うつ効果を有する化学物質としてketamineの作用に関する報告がなされ,20年近く経過しているが,その副作用(精神異常作用誘起と乱用の危険性)ゆえに一般的な治療法にはなっておらず,作用機構の解明と新たな薬理活性物質の探索が重要な課題となっている.本研究ではketamineが「解離性麻酔薬」という特殊な性質を有する点に着目し,大脳皮質と海馬に対する作用の違いを調べている.非侵襲長期電気活動計測をその特徴とする集積化電極アレイ(MicroElectrode Array; MEA)上で実験動物(Wistar rat)から採取した神経細胞を培養した系を用いて薬剤投与に対する応答を計測した.神経細胞群の自発活動を指標として0.1-100 uMの範囲で投与するketamineの濃度に依存した活動変化を調べた結果,大脳皮質では単調減少,海馬では低濃度でいったん上昇する傾向が見られていた.今年度は,NMDA受容体に対してketamineと類似の結合部位を有するが抗うつ作用,副作用とも認められず,アルツハイマー病に対する治療薬として実用化されているmemantineを投与した場合の応答について調べ,ketamineの作用との比較を行なった.結果として,基本的には大脳皮質,海馬ともmemantine投与によりketamine と類似の活動変化が誘起されるが,濃度依存性が高濃度領域にシフトする傾向が認められ,特定の濃度(1 uM)に焦点を当てると,ketamineによる大脳皮質の活動抑制のみが顕著に現われ,memantine投与に対する活動変化は大脳皮質,海馬とも認められないという状況が生じることがわかった.これらの差異が抗うつ作用,副作用とどのように対応するか,さらにその経時変化を調べることにより,即効性抗うつ効果を生じる機構の解明につながる知見が得られると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ketamineの抗うつ作用と副作用それぞれに対応する神経活動を可視化し,前者を即効性に発現し,かつ後者を最小限に抑える薬理活性物質の探索を行なうことが本研究の目標である.抗うつ作用はNMDA受容体に対するketamineの作用がトリガになると考えられているが,開口性アンタゴニストとしてketamineと同様の性質を有するmemantineは抗うつ作用,副作用とも示さないことに注目し,MEA基板上で培養した神経回路を利用した電気活動計測により両者の効果を比較する実験を行なった.副作用については,ketamineが解離性麻酔薬という特殊な性質を有することに注目し,(大脳皮質の活動は抑制され麻酔効果が発現するが,辺縁系の活動は抑制されないためにアンバランスが発生,不安定な状態になることがその原因である可能性があると考えて)大脳皮質と海馬の共培養系を構成,ketamine投与に対する薬理応答を観測,比較した.結果として,特定の薬物濃度でketamineによる大脳皮質の活動抑制のみが顕著に現われ,memantine投与に対する活動変化は大脳皮質,海馬とも認められないという現象が観測された.今後,急性応答と慢性応答に対応する電気活動を可視化し,その経時的な変化を詳細に解析することにより,即効性抗うつ効果を生じる機構の解明につながる知見を得ることが期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
ketamineの抗うつ作用と副作用を神経回路電気活動として可視化,メカニズム解明と新規薬理活性物質の探索を目指す立場から,以下の2つの課題を設定して実験を遂行,得られた結果を統合して研究成果の取りまとめを行なう. 1. 薬物投与に対する急性・慢性応答の観測 特定の薬物濃度でketamineによる大脳皮質の活動抑制のみが顕著に発現し,memantine投与に対する活動変化は大脳皮質,海馬とも認められないという現象が観測されたことに基づき,この条件下でのketamine投与に対する大脳皮質,海馬の活動につき長期計測を実施する.ketamineの抗うつ作用は,静注の場合投与後2時間程度で発現して1-2週間継続,解離性などの副作用は投与後すぐに現われて抗うつ作用発現前に消失するとされる(Dutta et al., Psychiat. Res., 2015).培養神経細胞群に直接投与する場合,効果発現までの時間遅れはさらに短いと考えられ,投与直後から2時間の神経活動を詳細に解析することにより,副作用に対応する信号パターンの抽出が可能と考えられる.さらに薬物投与後1週間までの自発活動変化を経時的に観測することにより,抗うつ作用に対応する信号パターン検出を目指す. 2. 新規薬理活性物質の探索 抗うつ作用に対応する神経活動を最も早期に発現して最も長期間継続,かつ副作用が少ない薬理活性物質の探索を行なう.NMDA受容体に対するアンタゴニスト作用を有する物質として,グリシン結合部位に作用するGLYX-13, 7-CTKA,GluN2Bサブユニットに選択性を有するCP-101,606, MK-0657(Pochwat et al. Expert Opin. Inv. Drug., 2014)等を候補として,急性・慢性の神経活動記録を実施する.
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