2016 Fiscal Year Annual Research Report
肥満の運動療法が影響する脂肪由来幹細胞の分化プログラムの解明
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16H03243
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
井澤 鉄也 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70147495)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 脂肪組織 / 脂肪由来幹細胞 / メタボロミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
内蔵脂肪組織(VAT)と皮下脂肪組織(SAT)の脂肪組織由来幹細胞(ADSC)は,それぞれの脂肪組織に固有の脂肪細胞に分化する.こうした固有の「細胞記憶」が後天的な環境刺激(たとえば高脂肪食摂取による肥満や継続的な運動トレーニング)によって書き換えられる可能性について検討した.はじめに,Wistar 系雄ラットを用いて,運動トレーニング(9週間のトレッドミル運動)(トレーニング)や高脂肪食(60kcal% 脂肪含有量)摂取が,成熟脂肪細胞とADSCからin vitroで分化させた脂肪細胞(分化脂肪細胞)の脂肪分解反応ならびに様々な代謝関連遺伝子のmRNA発現に及ぼす影響を比較検討した.トレーニングはVAT(精巣上体脂肪組織)ならびにSAT(鼠蹊部皮下脂肪組織)の成熟脂肪細胞の脂肪分解反応を増強し,様々な代謝関連遺伝子のmRNA発現を増加させた.分化脂肪細胞においても同様の現象が見られた.また,高脂肪食摂食によって起こる脂肪分解反応の低下も成熟脂肪細胞と分化脂肪細胞の両者で観察された.加えて,トレーニングや高脂肪食摂取によるADSCの分化シグナル変化が代謝遺伝子群の変化と併起する事を発見した.この現象をさらに見極めるため,成熟脂肪細胞やADSCからの分化脂肪細胞における代謝プロファイルをメタボローム解析によって検討した.メタボローム解析の結果,高脂肪食摂取やトレーニングはアミノ酸代謝プロファイルに著しい影響を与えることを見いだした.具体的には,高脂肪食摂取群では分枝鎖アミノ酸の生合成と代謝が有意に低下し,トレーニング群ではその代謝が亢進していた.以上の結果は,トレーニングや高脂肪食摂取の影響が成熟脂肪細胞に分化する前のADSCに「記憶」されていることを強く示唆し,本研究の目的を達成する上で重要な基盤的データとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定の一つに,エピジェネティクス変化を追求する計画があった.しかし,脂肪組織由来幹細胞(ADSC)において、シーケンスに必要なDNA濃縮の収率が想定外に低い事が判明したため,申請時に代替法として考えていたPCR法による定性的解析を行った.その結果,運動や肥満によるADSCの分化シグナル変化は代謝遺伝子群の変化と併起する事を発見することができた.そこで,標的分子の確実な同定と細胞機能の包括的理解をするため,代謝遺伝子の表現形(代謝物質)の網羅的解析を目的として,メタボローム解析を追加で実施した.メタボローム解析の結果は,高脂肪食摂取やトレーニングはアミノ酸代謝プロファイルに著しい影響を与えることを示し,この知見は極めて有意義なものである.本年度は,当初計画からを変更した実験があるものの,予想以上に重要な基盤的データを得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
メタボローム解析の結果は,ADSCから分化させた脂肪細胞における代謝的特徴の変化はアミノ酸代謝の変化と関連する可能性を示唆している.また,ADSCの分化シグナル変化は代謝遺伝子群の変化と併起して起こる.こうした現象の本質を見極めて鍵因子を同定するためには,マイクロアレイ解析による網羅的解析を追加することが有効な手段である.そこで,次年度は分化前のADSC,ならびにADSCから脂肪細胞に分化させた細胞においてマイクロアレイ解析を実施し,標的鍵分子の同定に迫る.また,細胞内のエネルギー代謝の変化がADSCの細胞分化に影響を与える事から,細胞内のエネルギー代謝を変化させた時の代謝関連因子のタンパク質発現変化等を確認することも必要である.さらに,ADSCは多分化能を持つ細胞である.そこで,ADSCの脂肪細胞への分化のみならず,神経細胞や骨格筋細胞,内皮細胞,骨細胞への分化能も運動トレーニングや高脂肪食摂取で影響するのか否かを検討することは,本研究の目的を達成するために極めて有意義である.同時に,VATとSATでは脂肪細胞(組織)の発生遺伝子群の発現パターンが異なることから,こうした発生遺伝子群の発現に及ぼすトレーニングや高脂肪食摂取の影響を調べたい.発生遺伝子は細胞の分化にとって極めて重要な働きをしている.そこで,次年度以降は上記の研究を推進させる予定である.
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Research Products
(9 results)