2017 Fiscal Year Annual Research Report
膜タンパク質の高速な質量分析のための赤外線レーザーイオン化技術の開発
Project/Area Number |
16H03291
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
間 久直 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70437375)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 膜タンパク質 / 赤外線レーザー / レーザーイオン化質量分析 / 液体クロマトグラフィー / 生体分子計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内分子の分析では液体クロマトグラフィー(liquid chromatography; LC)と質量分析(mass spectrometry; MS)とを組み合わせたLC/MSが広く用いられており、LCからの溶出液のイオン化には主にエレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization; ESI)が用いられている。しかし、現状のLC/MSでは難溶性である膜タンパク質の分析が極めて困難である。この主要因として膜タンパク質の可溶化に用いられる界面活性剤や尿素などの変性剤によるLC後のイオン化の妨害が挙げられる。そこで、本研究では、赤外線レーザーを用いた新規イオン化技術を開発し、膜タンパク質の直接のイオン化を可能とすることで、LCとMS をオンラインで接続したLC/MSによる膜タンパク質の高速な分析を実現し、プロテオミクスや新規医薬品開発におけるブレークスルーを目指している。 これまでに、大気中で波長2.94 μmの赤外線レーザーをペプチド水溶液に照射することで、溶液中のペプチドをイオン化させ、質量分析計で検出できることを確認した。しかし、大気圧赤外線レーザーイオン化では、ESIと比べて1桁以上検出感度が低いことがわかった。そこで、検出感度向上のためにイオン源の減圧を試みた結果、イオン源の圧力を大気圧の約70%に減圧することで信号強度が約1.4倍に向上することを明らかにした。 また、赤外線レーザーイオン化を用いてLCとMSをオンラインで接続し、10種類のペプチドを混合した試料をLC/MSで測定することに成功した。ESIによるLC/MSでは分離検出が困難な混合物であっても赤外線レーザーイオン化では分離検出できる可能性を示した。 さらに、赤外線レーザーにより蒸散した試料にエレクトロスプレーで電荷を付与することで検出感度を10倍以上に高められることが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
赤外線レーザーイオン化による測定の感度がESIによるものと比べて低い原因として、現在使用している赤外線レーザーのパルス繰り返し周波数が10 Hzと低いことが挙げられる。ESIが連続的なイオン化であるのに対して、レーザーでは1秒間に10回しかイオンが発生しない。そこで、赤外線レーザーの高繰り返し化による検出感度の向上を試みるため、新たに半導体レーザー励起赤外線レーザーの開発を行った。現在使用している赤外線レーザーはフラッシュランプで励起されているため、パルス繰り返し周波数が最高でも50 Hz程度である。そこで、赤外線レーザーの励起源を半導体レーザーに置き換えることで、パルス繰り返し周波数を1000 Hzまで向上させることに成功した。 また、大気中で波長2.94 μmの赤外線レーザーをペプチド水溶液に照射することで、溶液中のペプチド(アンジオテンシンII)をイオン化させ、質量分析計で検出できることを確認した。検出感度を向上させるためにイオン源の減圧を試みた結果、イオン源の圧力を大気圧の約70%に減圧することで信号強度が約1.4倍に向上することを明らかにした。 さらに、赤外線レーザーイオン化を用いてLCとMSをオンラインで接続してLC/MSを行った結果、10種類のペプチドを混合した試料をLC/MSで測定することに成功した。ESIによるLC/MSでは分離検出が困難な混合物であっても赤外線レーザーイオン化では分離検出できる可能性を示した。 そして、赤外線レーザーにより蒸散した試料にエレクトロスプレーで電荷を付与することによるイオン価数の制御を用いて検出感度の向上を試みた結果、赤外線レーザーのみの場合と比べて10倍以上の検出感度を得られ、塩や緩衝剤が含まれた試料でもESIと比べて感度が低下しにくいことが明らかとなった。 以上より、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに開発した高繰り返し赤外線レーザーによる検出感度の向上を試みる。現在使用している赤外線レーザーはフラッシュランプで励起されているため、パルス繰り返し周波数が最高でも50 Hz程度であるが、本年度開発した赤外線レーザーではパルス繰り返し周波数が1000 Hzまで向上したため、単位時間あたりのイオン生成量を増やすことで検出感度の向上が期待できる。 次に、イオン化補助剤(マトリックス)の検討を行う。これまでの研究で、赤外線レーザーを用いた真空中のMALDIでは尿素をマトリックスとして利用できることが明らかとなっている。そこで、タンパク質変性剤として多用されている尿素などをマトリックスとして利用することで検出感度の向上を試みる。LCからの溶出液に芳香族有機化合物などのマトリックスの溶液を混合することによるイオン化効率の向上についても検討を行う。 そして、引き続き、イオン価数の制御による検出感度の向上を試みる。一般的なMALDIはESIと比べてイオン化の価数が少ないことが知られているが、本研究課題ではpHの調整やイオン導入部の温度調整、および赤外線レーザーにより蒸散した試料へエレクトロスプレーで電荷を付与することなどによりイオンの価数を制御し、分子量の大きい膜タンパク質を高感度に検出する手法を検討する。 開発した高繰り返し周波数の赤外線レーザーによるオンラインLC/MS により膜タンパク質の分析を行う。LC の流量などを調整し、安定してイオンが得られる条件を明らかにする。精製された膜タンパク質試料の分析が安定して行えるようになった後に、実際の分析に近い生体試料を用いた分析を行う。LCによる膜タンパク質の分析に用いられる塩、緩衝剤、界面活性剤、変性剤を含んだ試料に対する検出感度をESI を用いた場合と比較し、赤外線レーザーを用いたオンラインLC/MSの有用性を評価する。
|
Research Products
(12 results)