2016 Fiscal Year Annual Research Report
投射経路選択的細胞活性制御法と計算論的手法を用いた意思決定の神経回路機構の解明
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16H03303
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
溝口 博之 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (70402568)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 意思決定 / DREADD / 島皮質 / 神経回路 / 精神疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
覚せい剤やコカイン依存症患者の意思決定プロセスは健常者と異なることが示唆されており、ハイリスク(刑罰)を恐れずハイリターン(薬物)を好むといったリスク嗜好性が高いことや、安定した小さい利益よりも近い将来の大きな利益を選択する(近視眼的意思決定)などの特徴がある。薬物依存患者における意思決定の障害は生体恒常性の制御機構の変化 (Science, 2007)、近い将来の快感に関連する扁桃体を含む衝動的神経回路と遠い将来に関係する思慮的な前頭葉皮質回路のアンバランス (Nat Neurosci., 2005) に基づくと提唱されている。しかし、薬物依存者の意思決定の障害が薬物乱用の原因であるか、あるいは薬物依存の結果として意思決定に障害が生じたのかは不明である。そのような背景の中、申請者は精神疾患への新たな治療戦略の発見を目的に、意思決定障害に注目したニューロ・エコノミクス(神経経済学)の創薬科学への応用を目指してきた。今までに受けた研究助成により、ヒトのIowaギャンブル試験を参考にラット用のギャンブル試験を開発した。この試験法はハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンの確率で餌報酬が貰えるゲーム的選択行動試験で、ラットの自己制御能力を明確に判断できる試験法であり、トランスレーショナルリサーチとして国内外で高く評価されている。本研究では、先駆的、独創的な研究成果をもとに、特に、皮質―線条体経路を中心に、①意思決定における島皮質GABA神経、グルタミン酸神経系の役割②意思決定における大脳基底核直接路、間接路の役割③意思決定における島皮質―線条体経路の役割④脳内計算機構における各種神経細胞の役割を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
連携研究者、共同研究者との連携が上手くいっており、kappa-opioid receptor (kOR)-DREADD、Cre-DOGテクノロジーといった新しいウイルスベクターの作製、供給も順調に進み、扱えるようになった。平成28年度は、サブスタンスPあるいはエンケファリンプロモーター制御下で線条体にhM4Diを発現させ、神経活動を抑制した時の行動選択について、ギャンブル試験を用いて検討した。予想と異なり、行動選択に大きな変化はなかった。その理由として、線条体は非常に大きな脳部位であるため、ウイルスベクターによる神経回路機能の抑制率が低かった可能性が挙げられる。よって、ドーパミン D2-Cre ラットなどの遺伝子改変ラットを用いて、多角的な検討を行う予定である。また、VGAT-dVenusラットの島皮質のGABA神経にhM4Diを特異的に発現させ、ギャンブル試験を行った。GABA神経を抑制すると、報酬予測誤差に異常が生じ、リスク志向な行動選択が増加する傾向が見られ、当初予想していた結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
線条体および側坐核の神経細胞に Cre-TTC (経シナプス逆行性Cre)をAAVにより発現させると、神経細胞にCre-TTC が取り込まれて逆行性に輸送される。島皮質にはAAV-Flex ベクターを感染させると、島皮質から線条体・側坐核へ投射する島皮質神経細胞だけで遺伝子発現させることが可能となる。蛍光タンパク質を発現させて組織化学解析を行い、陽性細胞数の定量化を行う。このシステムにより島皮質-線条体・側坐核神経回路のみに光遺伝学や薬理遺伝学のプローブを発現させ、特異的に操作し、ギャンブル試験を行う。さらに、最近報告された逆行性AAV sr2Retを新たに取り入れ、島皮質と線条体との領域間ネットワークを遺伝子操作し、行動実験を行う。また、ドーパミンD2受容体発現細胞特異的にCreを発現するラットを入手したので、ギャンブル試験を行う。また、VGAT-dVenusラット実験では、電気生理学的手法による共同研究を行うことで、リスク志向な行動選択に関わる神経回路について詳細に検討する予定である。
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