2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study of various concepts of causality and karma in Indian philosophy
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16H03348
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
丸井 浩 武蔵野大学, 経済学部, 教授 (30229603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 壽弘 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00201260)
桂 紹隆 龍谷大学, 公私立大学の部局等, フェロー (50097903)
稲見 正浩 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70201936)
加藤 隆宏 中部大学, 人文学部, 准教授 (80637934)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インド哲学 / 因果応報思想 / 因果性定義 / シャシャダラ / ニヤーヤ・バーシュヤ / ブラフマ・スートラ / ダルマキールティ / タットヴァサングラハ |
Outline of Annual Research Achievements |
インドにおける因果の思想を、道徳的因果(業思想)と物理的因果との両面から多角的に解明するために、多元的実在論に立つニヤーヤ・ヴァイシェーシカ両学派を中軸にしつつ、二元論や一元論に依拠する他学派(ヴェーダーンタ学派など)、および実体概念に依拠しない縁起思想に立つ仏教の因果論をも視野に入れた研究チームを構成している。2年目を迎えた本年度は、引き続き特任研究員を雇用して研究運営体制を維持し、全体的な活動としては2回の合同研究会を開催し(12月、2月)、第1回目には4名が発表した。丸井はニヤーヤ学派の因果業報思想を究明するために、「身体の検討」の付論相当の『ニヤーヤ・バーシュヤ』第3篇第2章後半の解読結果の一部を提示し、各人の身体の生起をめぐる議論が、同学派初期の因果業報思想の中核を形成していることを報告した。また和田は初期新ニヤーヤ学派の因果性を探求するために、シャシャダラの『ニヤーヤの定説の灯火』の「原因性章」の解読結果の一端を提示し、原因性の3種の定義の違いの意味を検討した。なおこの研究は口頭発表1件(東海印度学仏教学会、7月)、論文発表2本(『インド論理学研究』10、『印度学仏教学研究』66-1)として結実している。他方、稲見はダルマキールティの『関係の考察』とその注釈における因果論を扱う箇所の解読成果の一部を発表した。一方、加藤はヴェーダーンタ学派の根本典籍『ブラフマ・スートラ』第2篇第2章が因果性をめぐる諸問題が多く含まれている箇所であることを明らかにし、その箇所に対する諸注釈(特に『シャンカラ註解』と『バースカラ註解』)の比較検討の意味を展望した。 また仏教研究班(桂、稲見、研究協力者である志賀浄邦氏)は『真理綱要』第9章(業と果報の関係の考察)とその『パンジカー注』の解読作業も継続された。このほか本研究に関連して、海外での招待講演が4件あった(桂、丸井)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 個別研究を含む共同研究の組織的運営体制と研究方針は概ね予定通り進展している。全体的活動に関しては、年度当初のメール会議により研究計画を確定した上で、2回の合同研究会を開催した。特に第1回目(12月)は4人(丸井、和田、稲見、加藤)による研究成果の中間発表を行ない、原典解読上の問題点、諸学派間の因果性概念の共通性と相違性などが明らかとなり、また次年度のパネル発表に向けての準備的な討議も行った。第2回目(2018年2月)では岩崎・日比によるヴァッラバ(ヴァイシェーシカ)の「神の存在証明と因果」論に関して研究発表がなされ、因果性の確定問題では帰納的証明の限界に対する意識のもとで、仏教論理学で重視される反事実仮想論法も適用されていること、因果性概念には個々の因果性と因果性一般(因果律)とを区別すべきであることなどが新たな問題点として浮かび上がった。パネル発表企画申請に向けての最終的な打ち合わせも行った。 個別研究についても概ね順調に進んでいる。特に、新ニヤーヤ学派の因果性定義の解明に向けてシャシャダラの『ニヤーヤの定説の灯明』「原因性章」の解読が和田によって推進され、その成果は着実に公表されつつある。また(古)ニヤーヤ学派初期の因果応報思想については、丸井による『ニヤーヤ・バーシュヤ』第3篇第2章の付論「身体と業」の解読、ならびに桂によるニヤーヤの輪廻・解脱論と仏教の縁起思想との関連の解明が進んでいる。そのほか仏教研究班(桂、稲見、志賀)による『真理綱要』第9章のテキスト校訂を含む綿密な解読作業も順調に進んでおり、インド哲学諸派と仏教との因果応報をめぐる論争の実態解明が前進している。3月にはE. Prets博士を招聘し、インド哲学文献デジタル資料の扱いやニヤーヤ学派思想についての講演がなされた。本研究の成果公開に関連して海外での招待講演も4件なされた(桂、丸井)。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度より研究代表者の所属が変更になるので、まず研究運営体制を再構築するために事務補佐員を雇用する。具体的な研究内容に関しては、日本印度学仏教学会第69回学術大会(9月)におけるパネル発表「インド哲学における因果性確定の方法をめぐって」が、次年度の中心的な活動となる。すでに発表の構成・メンバー・発表要旨は2018年2月のコアメンバー会議で決定しているが、インド哲学諸派において因果性確定の論理として一般化しているanvaya-vyatireka法(肯定的随伴「Aがある時、Bがある」と否定的随伴「Aがない時、Bはない」の組合せ)が、パーニニ文法学において特定の語とその意味との随伴関係を確定するanvaya-vyatireka法、ならびに仏教の縁起の道理(此れがある時、かれがあり、此れがない時、かれもない)とどんな関係になるかは、重要な論点になるはず。また限られた経験によって個々の因果性は確定しうるのか、あるいはそもそも因果律という原理一般を承認する根拠は何か、などの根本問題もあわせて考えることになる。 パネル発表以外の個別研究に関しては、まず仏教研究班(桂、稲見、芳賀)による『真理綱要』第9章の校訂・翻訳の作業は継続する。本章は、行為とその結果との因果性を仏教の無我説と刹那滅存在論のもとで論証することが目的であるが、そもそも因果性の実在を否定する反対主張や、行為主体の実体(アートマン)を立てるバラモン系の哲学諸派との論争を含み、学派横断的な因果応報をめぐる議論の解明には格好の資料となる。加藤は引き続きヴェーダーンタの一元論哲学において因果性が果たす役割を究明するために、『ブラフマ・スートラ』の諸注釈を比較検討する。桂は解脱論と因果性の問題を、ニヤーヤ学派と仏教学派の主張を比較することによって、仏教の縁起思想は、インド哲学諸派の因果論にどのような影響を及ぼしたかを考える。
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