2017 Fiscal Year Annual Research Report
Musique mixte及びCAOに於ける歴史的作曲技法を前提とした方法論研究
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16H03382
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
野平 一郎 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (60228335)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小鍛冶 邦隆 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (90463950)
鈴木 純明 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (20773906)
折笠 敏之 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80751479)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 作曲方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の野平は10月のヴェネツィア・ビエンナーレ2017出品に向けて打楽器によるミクスト音楽作品増補版制作に当たった。音楽祭部門ディレクターであるI.フェデレ(フランス国立音響音楽研究所IRCAMとも深い関わりを持つ作曲家)を通じてビエンナーレから委嘱を受けての創作でもあり、作曲は初版に比べ2倍以上に増幅され、Maxによるコンピュータのパッチは拡大した(すべての電子音響のコントロールにスコア・フォロワーAntescofoを使用。前年度ミクスト音楽についての研究会を開催した際に招聘したJ.M.フェルナンデスと共に6月と9月パリにてパッチ制作に当たった)。 10月末にはIRCAMからG.ロリウーを招き、主にCAO( 「コンピュータ支援作曲」)についての研究会的な特別講座を4日間に渡って開催した。方法論的な水準で何らかの形式化formalisationを伴う現代音楽の歴史的作品素材の数々が、OpenMusicをはじめとした開発環境上でのごく単純なプログラムによって再構成されることを例証的に確認し、コンピュータを援用した創作方法論の現代音楽に占める一定の位置付けや可能性を再認することとなった。同講座最終日には大学院生3名によるミクスト音楽作品試演会(前年度に続き、史上2回目)が行われた。 2月には、分担者の鈴木がパリ音楽院在籍中に数年間に渡って師事する等でも関わりの深い作曲家、M.ストロッパによって80年代末にIRCAMで制作された重要作品の日本初演を中心とした第2回REAM演奏会を開催した。その演奏面では分担者の小鍛冶の指導のもと大学院生もリハ全般に関わり、特にストロッパ作品については質の高い上演となった。加えて、選考を経た大学院生1作品を再演したほか、分担者の折笠が素描段階の小品の試演的な発表を行った(折笠は上記ストロッパ作品演奏のコンピュータ・オペレーション等も担当)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は、代表者の野平と分担者の鈴木がIRCAMで制作したミクスト音楽旧作を再演し、研究会や院生作品試演会等を通して、ミクスト音楽の方法論的な研究を中心に計画を進めた。続くこの平成29年度は、代表者野平がヴェネツィア・ビエンナーレ2017への出品に際して、スコア・フォローのためのプログラムAntescofoをより深く追求したミクスト音楽の創作・発表を継続したほか、CAO(「コンピュータ支援作曲」)についての有意義な研究会を開催し、その方法論的な重要性や可能性を確認することが出来た。 教育研究という点からは、前年度、東京藝大作曲科史上初めて開催された、学生(修士課程2年生)によるミクスト音楽作品試演会の一定水準での開催を継続した(尚、作曲科における教育内容としては、当然Antescofo等発展的なプログラムを使用したパッチの作成も含まれている)。 年度最終の成果発表機会としての性格を持つREAM演奏会では、音像の空間への定位や室内音響(残響)のコントロールを行う"spatialisation"に関する(既に歴史的に)重要な作品の一つとして、弦楽四重奏曲としても水準が高いM.ストロッパ作品「空間へと投影された弦楽四重奏のための《Spirali》」を取り上げることで、その演奏に際しての諸々の検証を行うことが出来た。演奏会終了後にも分担者の鈴木が作曲者自身へ報告を行っている。 また、初年度に本研究に基づく演奏会開催に際して組織されたEnsemble REAMが、今回の演奏会でもストロッパ作品演奏等を担当したが、分担者小鍛冶の指揮による第86回日本音楽コンクール作曲部門本選会での同アンサンブルの演奏が「コンクール委員会特別賞」を受賞したことは、今後の本研究に於ける演奏実践面で得られる成果の展望としても大きなプラス要素と考える。以上を踏まえて、研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
同様の方向性で計画を実施する。更に、次(平成30)年度終了後の本研究課題関連領域での研究の継続性、或いは、より深く追求していくべき事項について精査することも研究最終年度の課題である(中期的には方法論研究を受けての質の高いチュートリアル等作成も含め可能性を検討)。 一例をあげれば、前項までに挙げたスコア・フォロワーAntescofoは、現在も研究開発が日々進行中のプログラムであり、今後もその推移を見守ることは重要である(野平のMaxパッチ制作の際に協力を受けたフェルナンデスは、現在IRCAMでAntescofoをテーマに研究論文を執筆中である)。このAntescofoは、2005年より野平が芸術監督を務める静岡音楽館AOIにおいて07年に委嘱初演されたストロッパ作品《... of silence》のIRCAMでの制作段階に、作曲者からの創作上の要求のもと研究者A.コントらとの共同により開発が進められたものである。今回、ストロッパ作品を取り上げたのは主にスコアフォロワーとは異なる文脈からとはいえ("spatialsateur")、Antescofoを用いたヴァージョンへと更新された《Spirali》のMaxパッチによる演奏により日本初演を行う等、この分野の創作・演奏の基礎的方法論研究の水準に於いてはどれも重要な関連を持っている(ストロッパは更にOpenMusic関連でもライブラリOMChromaの開発に深く関わる等で貢献している)。 またCAO関連の開発環境における既存作品の再構成の成果(概要欄に挙げた単純なプログラムのみならず、例えば近年ジュネーヴ音楽院等によるプロジェクトで開発された"cage"によるG.グリゼー作品再現なども含め)を参照する等、創作方法論的な位置付けに加えて、分析の観点からも作曲専門領域における研究の水準で注視する必要性がある。
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Remarks |
藝大作曲科公式webサイト (参考:ヴェネツィア・ビエンナーレ2017、ティエリー・ミログリオ・パーカッション・リサイタル) http://www.labiennale.org/en/music/2017/programma-musica-2017/thierry-miroglio-percussion-recital
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