2016 Fiscal Year Annual Research Report
プラハとダブリン、亡霊とメディアの言説空間―複数の文化をつなぐ《翻訳》の諸相
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16H03398
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川島 隆 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10456808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊谷 哲哉 近畿大学, 経営学部, 講師 (20567797)
中村 寿 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (40733308)
吉川 信 大妻女子大学, 文学部, 教授 (70243615)
桃尾 美佳 成蹊大学, 法学部, 教授 (80445163)
阿部 賢一 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (90376814)
木内 久美子 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (90589657)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プラハ / ダブリン / 超領域 / 亡霊文学 / メディア / オカルト/心霊主義 / 翻訳 / 言語とナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者・研究分担者・連携研究者がそれぞれ担当研究分野の資料収集に努め、三年間のプロジェクトを遂行するうえで必要な研究基盤を構築した。具体的には、吉川信(研究分担者)と桃尾美佳(研究分担者)がジョイス文学に関して、木内久美子(研究分担者)がベケット文学に関して、それぞれ亡霊文学の系譜におけるアイルランドというテーマを深め、これをさらに「霊媒=メディア」という問題系と結合させる方途を探った。そこでは亡霊的なもの、すなわち(本来)知覚不可能なものを知覚させる「メディア」への意識を尖鋭に示す文学が生まれるにあたり、作家たちが経験した都市ダブリンにおける複雑な民族的・言語的状況が果たした役割の重要性が明らかになりつつある。なおドイツ語圏における「霊媒=メディア」の問題については、熊谷哲哉(研究分担者)が研究の理論的基盤の構築を進め、これを平野嘉彦(連携研究者)がマイリンク文学と、城眞一(連携研究者)がリルケ文学との関連を考察した。さらに、コミュニケーション・メディアの問題と言語問題の接点について、鈴木里香(研究協力者)と川島隆(研究代表者)が主にカフカ文学を手がかりに考察した。多言語都市プラハを舞台に、異なる文化圏をまたいで行われる文化的「翻訳」という研究テーマをめぐっては、大阪大学の三谷研爾教授による研究プロジェクト「<プラハのドイツ語文学>再考」と共同で研究が進められた。阿部賢一(研究分担者)がチェコ文学とドイツ文学の相互作用を、中村寿(研究分担者)がユダヤ人の民族主義的ジャーナリズム活動をそれぞれ調査した。 上記の研究課題については、各メンバーがそれぞれ現時点での研究成果を学会や研究会の場で発表し、論文や著書などの形で刊行した。また、予定どおり二回の研究会合(2016年8月と2017年3月)を実施し、研究発表とディスカッションを通じて問題意識の共有および理解の深化を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、予定していた研究会合は滞りなく行われ、メンバー間の問題意識の共有も順調に進んでいる。研究に必要な文献・資料の収集も順調である。海外調査については、想定していた調査先をすべて網羅することはできなかったものの、適切な調査先が選ばれ、海外の研究者との充実した交流が行われている。なお、そもそも亡霊文学とは何か、異文化間の「翻訳」とは何かといった理論的な側面については概念定義上の困難も浮き彫りになりつつあるが、これは当初から想定されていた困難である。亡霊的なものを捉えようとした文学の実例、異文化間コミュニケーションの(成功と失敗をめぐる)具体的な事例を集積することで、帰納的に諸概念の内実が絞られていくことが期待される。各メンバーは国内外において積極的に研究成果の発表を行っており、国際的に見ても質の高い知見が蓄積されつつあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、研究の次の段階として、初年度の個別研究で得られた知見にもとづき、各メンバーがそれぞれ所属学会で研究発表を行う。ダブリンの作家たちとプラハの作家たちについての研究成果を突き合わせ、相互の研究分野へのフィードバックを行う。また、これから先、複数の領域を仲介する「翻訳者」の問題に全員で取り組むために、異文化間「翻訳」の行為をいかに定義し、いかに評価するかについての理論的な整備を川島隆(研究代表者)が中心となって進める(※)。 ※ただし、プラハとダブリンの(共通点が多いとはいえ、部分的には大きく異なる)状況を包括する理論の構築がうまく進まない事態は想定できる。その場合は、理論化の作業はさしあたり留保し、各メンバーがそれぞれ独自のメソッドで研究を進めるとともに、最終年度のシンポジウムの議題に異文化間「翻訳」の理論(の困難)というテーマそれ自体を盛り込む。 この年度においては、プラハの複数領域研究の第一人者であるミシガン大学教授Scott Spector(研究協力者)を研究会に招聘し、専門的知識の提供を求める。さらに、プラハ文学とダブリン文学に造詣の深い研究者を海外から招聘して講演会を開催するとともに、研究協力者への参加を依頼し、継続的な共同研究の可能性を追求する(※)。プラハの知識人をめぐる長期研究プロジェクトに携わるヴァイマル音楽大学のシュテフェン・ヘーネ(Steffen Hoehne)教授や、イェイツをはじめ英文学の作家たちとオカルト/心霊主義の関係を研究するペンシルバニア州立大学モントアルト校のスーザン・ジョンストン・グラフ(Susan Johnston Graf)准教授などが目下の候補。 ※当該年度の海外研究者の招聘が不調に終わった場合は、招聘予算を海外調査(資料収集および海外研究者に対する次年度の研究協力の打診)の用途に切り換える。
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Research Products
(22 results)