2017 Fiscal Year Annual Research Report
現代日本語と韓国語の省略現象に関する対照研究―言語構造的特徴の解明をめざして―
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16H03413
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
生越 直樹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90152454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 保裕 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (10718422)
金 智賢 宮崎大学, 語学教育センター, 准教授 (40612388)
尹 盛熙 関西学院大学, 国際学部, 准教授 (70454717)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日韓対照 / 名詞文 / 省略現象 / 機能語 / 主節省略 / 条件文 / Twitter / コピュラ |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)データの収集およびデータベース化 前年度に引き続き,各自が分担してデータ収集を行った。既存の大規模コーパス[金]のほか,話し言葉は翻訳字幕,討論番組,ドラマ脚本,談話資料[尹,生越],書き言葉は新聞記事,TVニュース[尹]からデータを収集した。情報メディアテキストに関しては,前年度に引き続き,Twitterのデータを収集したほか,LINE及びKakaoTalkのデータも収集した。 (2)研究テーマとその分析 前年度に引き続き,各分担者が注目しているテーマについて分析を進め,日韓両語の異同を明らかにした。名詞文の文末と連体修飾節の関連性についての分析から,名詞文使用における日韓両語の違いは文末だけでなく連体修飾節にも見られることを明らかにした[生越]。述部における省略現象について重点的に分析を進め,日韓両語に共通する省略現象(機能語の省略など)と各言語に特徴的な省略現象(述部の省略など)があることを明らかにした[尹]。条件文と原因・理由文の主節の省略現象について分析を行い,日本語の方が主節省略の現象が目立ち,一方韓国語は主節を完全に省略せずに代用語を用いる傾向があることを指摘した[金]。さらに,情報メディアに関しては分析対象をTwitterデータのほか,Instagram,Facebookの資料も追加しながら,言語だけでなく使用するメディアの特徴も踏まえた分析を行った[新井]。 (3)研究成果の検討および成果発表 各自が学会等で研究発表や招待講演を行い,研究成果を発表した。さらに,3月に韓国ソウルで行われた韓国日本語学会で科研メンバーによるワークショップを行い,分担者各自がこれまでの研究成果を発表するとともに,他の研究者との意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)データの収集およびデータベース化 省略傾向を網羅的に観察するため,文字媒体・音声媒体,書き言葉・話し言葉など,様々な種類のテキストからデータを収集している。今年度は,話し言葉ではTVニュースや討論番組,アニメーションなど,情報メディアテキストではLINE及びKakaoTalkの疑似自然談話データを収集するなど,データの収集範囲を広げた。 (2)研究テーマとその分析 各自のテーマについて分析を進めるなかで,両言語に共通して現れる省略現象と両言語で現れ方が異なる省略現象があること,さらに,その両言語の違いに関係する要素についても分析が進んできている。具体的には,名詞文使用について,文末と連体修飾節における日韓両語の違いにおいて,動作性名詞や情報の共有意識が関連していることを指摘した[生越]。両言語とも機能語などを省いた不完全な述部を用いて経済性を確保するという共通点があること,その一方で日本語は韓国語より述部の省略が顕著であり,韓国語は助詞を省いて複合語に近い形の省略形式を活用する傾向があることを明らかにした[尹]。条件文や原因・理由文における主節省略の様相の違いは,日本語が複文の構造を容易に単文構造にできるのに対し,韓国語は文構造の完全性を維持しようとする特徴を持つという,言語構造的な違いを示すものだと指摘した[金]。情報メディアテキストの分析を通して,そこに現れた違いは言語によるものだけでなくメディアの違いによるものもあり,言語,メディア双方からの分析の重要性を指摘した[新井]。 (3)研究成果の検討および成果発表 韓国日本語学会で,我々が日韓両語の省略現象についてのワークショップを企画し,科研チームの成果をまとめて発表する機会を得た。その場で多くの研究者と意見交換できたことは,大きな成果であった。このほかにも,各分担者は積極的に研究発表や論文執筆に取り組んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)データの収集およびデータベース化 引き続き,多様なデータの収集およびデータベース化に取り組む。Twitterコーパスについては,さらにデータの追加を行い,最終的には3600件程度の中規模コーパスにする。また,SNSの違いによる表現の違いを明らかにするため,同一人物によるいくつかのSNSデータを収集することを考えている。 (2)研究テーマとその分析 これまでは,省略現象の把握に重点が置かれていたが,今後は省略現象と言語構造の特徴との関連性について,より深い分析・考察を行う。機能語と実質語の異なる役割と省略現象の関連性,主節省略の様相の違いと文構造の関連性,さらに言語構造における省略現象の位置づけについて考察することで,日韓の個別言語的特徴に留まらず,普遍的な方向性も模索する。情報メディアについては,言語による違いとSNSによる違いを明らかにし,省略現象の日韓対照研究を通して,ひと・ことば・メディアの関係について考察する。さらに,名詞文における名詞句やコピュラの省略から,論理文と名詞文の関係についても考察する。論理文と名詞文は一見大きく異なるように見えるが,日韓両語では条件形式と提題形式が共通性を有することが指摘されている。これらの構文における省略現象に共通の傾向性が見られるなら,それは両言語における構造的な特徴をよく表すものと考えられ,省略研究の一つの成果となろう。 (3)研究成果の検討および成果発表 年2回程度の検討会を引き続き行う。その検討会にはテーマに関連する研究者を招いて意見交換を行うことを考えている。さらに,今年度行った韓国の学会でのワークショップに続いて,次は日本の学会でワークショップを行い,日本の研究者との意見交換を進めていく予定である。
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Research Products
(9 results)