2017 Fiscal Year Annual Research Report
Polarization in the Japanese Labor Market: Micro, Macro, and Experimental Data Analysis
Project/Area Number |
16H03631
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
照山 博司 京都大学, 経済研究所, 教授 (30227532)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松島 斉 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (00209545)
柴田 章久 京都大学, 経済研究所, 教授 (00216003)
神林 龍 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40326004)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 非正規雇用 / 労働市場の二極化 / 二重構造 / 労働経済学 / 日本経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
各メンバーが相互に研究協力を行いつつ、以下の成果が得られた。 照山は、正規・非正規間移動の初職効果と状態依存に関する分析、および、正規・非正規雇用の賃金決定と賃金格差の分析結果をまとめ、共著の書籍の一部としてSpringerより出版した。結果は、正規・非正規間移動の持続性に強く影響する要因は前職の雇用形態であり、初職の影響は小さい;正規雇用者の賃金には、2000年以降、安定した賃金・勤続プロファイルが観測できるが、非正規雇用者の賃金は勤続年数に依存しない、ということなど、労働市場の二重構造仮説を支持するものであった。また、同書は、失業の期間依存性について、1年以上の失業者の就業確率は、失業直後の約半分になるとする研究も含む。 神林は、正規労働と非正規労働の成り立ちについて書籍をまとめ、慶應義塾出版界から出版した。 柴田は、前年度より、失業率の上昇と非正規雇用の増大が出生率に与える影響について実証的な分析を行ってきている。本年度は投稿先からの要求に従い、追加の推定等の新たな分析を行ったが、得られた結論に大きな修正はなかった。再投稿の結果、人口学分野のトップ誌であるDemographyに採択された。主な結果は、男性の雇用情勢の悪化は結婚率の低下をもたらすのに対し、女性の雇用情勢の悪化は既婚家計内における出生率の上昇をもたらす;仮に雇用情勢が1995年以降も1980年代と同一水準にとどまっていたとしたなら日本の総出生率は現実に観察されたものより10%から20%低くなっていた、というものである。 松島と照山は、長期的なパートナーシップについての実験を、日本の取引慣行を考慮する形で内容を大幅に修正して、2018年2月に、被験者約150名を対象に、正規の統制実験としておこなった。また、松島は、オークションと制度設計に関する理論研究を進め、複数の査読付き専門誌に公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
照山は、企業パネルデータを用いた分析によって、企業レベルの非正規雇用の需要を、とくに非正規雇用がゼロの企業の存在などの企業間不均一性に留意しつつ推定し、その推定係数に基づいて、2000年以降の非正規雇用の増加要因を検討した。その結果、個別企業の需要不確実性や生産技術などの直接的な労働需要側の要因よりも、マクロ的に女性労働供給が増加したことが非正規労働供給を増加させ、それが企業の非正規労働需要の創出に繋がったことが支配的な要因であるとの示唆を得た。この結果は、上記の柴田による本年度実績のDemography掲載論文などの女性のライフイベント行動と労働供給についての研究結果と総合的に解釈すると、女性の未婚率の上昇が非正規雇用の増加にとって重要であったとの示唆を得ることになる。また、本年度実績として報告のSpringerから出版した研究を発展させ、より大規模な政府統計(賃金センサス)を用いた正規・非正規雇用の賃金決定とその変化に関する推定を行う検討に入っている。非正規労働の需要側である企業活動のパネルデータ(企業活動基本調査)による分析を継続する計画も進行中である。 神林は、10年残存率などの長期勤続の最近の動向を新しいデータを用い、1980年代以降の趨勢に概ね変化がないことを確かめた。 柴田は、基本となるモデルの構築に取り組んでおり、その骨子がほぼできあがったところである。平成30年度中に、このモデルを用いて、企業の水平的統合が所得分配に及ぼす効果の分析を行う予定である。 松島は、平成29年度に実施した長期的なパートナーシップについての実験結果の統計的な解析方法を、萱場豊(東京大学)の協力を得つつ、照山と検討している。以上のように、各メンバーが連携しつつ、計画にそった研究を進めつつあるため、おおむね順調な進展と判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
照山は、非正規雇用増加の需要側分析として、経済産業省「企業活動基本調査」調査票によって前年度までに統計解析された結果を論文としたが、その結果を基に、さらに、推定期間の最近までの拡張、変数の短期要因と長期要因への分解方法の再検討、新たに、構造モデルによる推定の視点も加えて拡張する。そのために、経済産業省「企業活動基本調査」調査票を再び申請する。また、総務省「労動力調査」(基本集計・詳細集計)につき調査票利用申請を行い、再集計によって、契約期間や労働時間、職場呼称で区分された正規・非正規雇用者数を推定し、景気循環に応じて生じる雇用変動の特性を分析、また、非正規雇用と他の労働力状態(正規・自営・非労働力・失業)間の移動を把握し、非正規雇用増加の供給側要因を探る。厚生労働省「賃金構造基本調査」によって、正規・非正規雇用形態間の賃金関数を、自発的・非自発的要因をともに含む雇用形態間の選択行動と同時に推定する。そのために、「賃金構造基本調査」の調査票利用申請を行う。 神林は、自営業が盛衰した分野に進出したビジネスについて調べ、当該分野での雇用状況を確かめることによって、労働市場の変転のひとつの側面を明らかにする。 柴田は、現在進めている理論研究を一層発展させ、企業統合として、水平的統合に加えて垂直的統合の場合も分析し、所得分配への影響がどのように異なるのかを分析することを目指す。 松島は、日本の取引慣行を考慮した長期的なパートナーシップについての実験結果を、萱場、照山とともに統計的に解析する。また、照山と行った複数種財取引のオークションについての経済学実験による研究を基に、労働市場の観点を取り入れて、萱場、照山とより精緻な解析を進めるほか、オークションと制度設計に関する理論研究を進める。
|
Research Products
(10 results)