2016 Fiscal Year Annual Research Report
企業成長を促進する共進化メカニズムの解明:レッド・クィーン理論の拡張を通じて
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16H03658
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三橋 平 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (90332551)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ALCANTARA L.L. 立命館アジア太平洋大学, 国際経営学部, 准教授 (10584021)
閔 廷媛 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (30632872)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経営学 / 社会的インターアクション / 傾注 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度には、3本の論文発表、2本の学会発表、2回のセミナー発表を行った(2本の論文発表については掲載決定のみのため本報告書には含めない)。論文発表①の概要を紹介する。ここでは、コンテスタントがステータスを求める競争環境下において、他の競争的行為が当該コンテスタントの競争的行為に与える影響に関する研究を行った。各コンテスタントは、市場・ドメインに参入し、この入退出によってポートフォリオを築いている。また、各コンテスタントは、顧客からの傾注を得ることによってステータスを得ることができる。この状況において、当該コンテスタントに参入している市場・ドメインに対して、ある他のコンテスタントが参入した場合、当該コンテスタントへの顧客からの傾注が消失し、ステータスを獲得、維持することが難しくなる。特に、高ステータス・アクターによる参入は、その可能性を高める。そこで、ステータスが資源となる時、他コンテスタントの市場・ドメイン間移動が、当該コンテスタントの移動にどのような影響を与えるのかを検証した。 検証には、米国セル・サイド・証券アナリストのパネル・データを用いた。分析結果の1つは、高ステータス・アナリストが参入した場合、当該アナリストが低ステータスな場合には、その市場を退出し、別の市場へと参入していることが分かった。これは、顧客は、高ステータス・アナリストと当該アナリストを相対的に比較し評価を行うため、見劣りすることを避けたものと考えられる。一方、当該アナリストが高ステータスな場合には、背中を見せたと顧客に評価されたくないため、その市場へ居残り続けることが明らかになった。このように、傾注、競争、競争的行為に加え、ステータスを分析フレームワークに入れた点が本論文の新規性である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
傾注、競争、競争的行為をキーワードに、複数のプロジェクトを進めている。プロジェクトの数や進度については、問題を感じていないが、メインとなる第1のサブ課題については、様々な困難が生じている。このサブ課題では、競争的非対称性をテーマとしている。ここでの非対称性とは、XがYをライバル視している際に、YがXをライバル視しないときに発生する。このような非対称性は、Yの立場から見れば、Xという潜在的脅威の見逃しであり、Xの立場から見れば、競合が持つ「レーダー」から身を隠すことにつながる。いずれの立場から考えても、企業成長と衰退に関係してくる重要な概念である。 仮説としては、カテゴリー論、特にcategory-spanning (カテゴリーの二股)理論を応用し、新興市場における新興企業が、多様性の高い製品群を取り扱っている場合、また、新興市場に即したアイデンティティを有している場合には、より競合他社がその企業に対する理解が深まらず、無視しやすい、と考えている。先行研究に準じて米国版有価証券報告書10Kのテキストデータを使用し、特にCompetition (競合)のセクションに記載されている企業を、当該企業が認識するライバルとして分析を行った。現時点では、米国オンラインショッピング産業の黎明期に着目し、新興市場における新興企業がライバル視している企業は、返報的に当該新興企業をライバル視しているか、という分析を行っている。 このデータベースは完成済みであるが、上場企業を対象としているものの、新興企業であるという理由からか、欠損値が多いという新たな問題が出現している。現在この問題に対してどのように対処をするかを検討している。このように研究に対する時間の投入は継続的に行われているが、テーマに由来するデータの収集困難性からいくつかの問題が生じていることも事実である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては以下の2点について考えている。まず第1に、傾注、競争、競争的行為、レッド・クィーンをキーワードとした研究をこれまで進めてきている。上述のサブ課題以外にも、新たな共同研究の機会に恵まれ、新しいデータ・セットへのアクセスも始まっている。したがって、上記キーワードを中心とした、既に着手している研究課題については、データ収集をいち早く終了、文献レビューを同時進行させ、研究生産性を高めていきたい。 第2に、研究を進めていく中で、イノベーションに対する関心が高まってきた。これは、競争、レッド・クィーンは、イノベーションの発生と深く関係していることを鑑みると、自然な展開ではある。ただ、単純な競争とイノベーションの関係だけでは既に研究が行われていることもあり、私の研究分野の1つでもある社会ネットワークの視座を含めて、包摂的なアプローチで研究を進めていきたいと考えている。
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