2016 Fiscal Year Annual Research Report
災害リスク対策導入の波及効果:他ハザードへの認知・行動に及ぼす影響
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16H03729
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | リスク認知 / 災害対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ある災害リスク対策を実施することが、その後、別のハザードへの認知や対処行動にどのように影響するのかを検討することである。あるリスク対策の実施が別のハザードのリスク認知を高めるのか低めるのか、対策の実施を促進するのかそれとも抑制してしまうのかは、防災実務において重要な問題であり、理論的にも興味深いテーマである。理論的には、ある脅威(例えば、病気)への事後的防護策を持つこと(例えば、保険加入)が、その脅威の発生確率を低く認知させ、さらには無関係な脅威の確率評価まで下げてしまうという保険効果が問題となる。保険は脅威が発生した後にそのダメージを緩和できるに過ぎず、保険加入が脅威の発生確率そのものを低く見積もるようになったり、さらには無関係なハザードへのリスク認知まで下げるとしたら、各種災害対策が抑制され、非合理的な災害対策を招きかねない。しかし、この保険効果については再現性が弱いという主張もあり、論争となっている。本研究は、地震対策という文脈でこの問題を整理し、実証的にリスク対策導入の波及効果を明らかにすることを目的としている。 昨年度の研究計画は、保存食備蓄を具体的な材料とした実験を実施し、その提供によって震災関係ハザードのリスク認知と対処行動意図、および、震災とは無関係なさまざまなハザードについてのリスク認知と対処行動意図がどう変化するかを検討することであった。 実験は予定どおり実施され、配偶者と同居する主婦を参加者として、災害対策(保存食)の提供を受けることが決まった直後、数日後に実際に受け取った時点、さらに数ヶ月後、の複数回においてリスク認知と対処行動意図を測定した。実験の結果は概ね保険効果を否定するものであった。保存食提供によって他のリスク認知の低下は若干みられたものの大きな影響はなかった。むしろ、対処行動意図を全般的に高める効果が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論的な検討を踏まえた上で実験実施の準備を整え、当初を予定どおり実験を実施してデータを収集することができたから。得られた結果の一般性の検証は今後も進めていくが、暫定的な研究成果を第20回実験社会科学カンファレンスで発表することができた。さらには、アメリカのWashington大学で開催されているM9研究会(マグニチュード9の地震に対するレジリエンスを検討する学際的な研究会)や、リスクコミュニケーションと意思決定研究で著名なオレゴン州のDecision Researchでの研究会で発表し、専門的な議論を行うことが予定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた知見は、「リスク対策の提供は、保険効果によるリスク認知の低下や対処行動意図の低下を生み出すことはない。むしろ、対処行動意図を促進する肯定的な影響がある」というものであった。今後の研究方針としては、まずその知見の一般性を確認することに取り組む。具体的には日本と同じ地震国であるニュージーランドにおいて、保存食備蓄とは異なる災害対策を提供し、その影響を検討する。このため、実験の実施や分析はニュージーランド・マッセイ大学のJoint Centre for Disaster Researchを拠点として進める。 実験デザインの基本形としては震災対策提供の有無を操作し、震災関係ハザードのリスク認知と対処行動、および、震災とは無関係なさまざまなハザードについてのリスク認知と対処行動を測定することになる。実験参加者はニュージーランド・ウェリントン在住の一般市民となる。 他国・他大学での研究実施となるので、研究倫理申請や市民レベルでの災害対策の実態理解、実験において提供する災害対策の選定、実験参加者のリクルート、などが今後解決すべき課題となる。これらについては、現地のJoint Centre for Disaster Research所長であるDavid Johnston氏の協力が得られることになっており、周辺研究者達と情報交換しながら具体的作業を推進する。また、実験結果に基づいて単に知見の一般性を確認するだけではなく、理論的な精緻化を進める。
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Research Products
(2 results)