2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H03751
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
ローレンス ヨハン 九州大学, 基幹教育院, 教授 (80589135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 哲也 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (30384720)
小林 俊輔 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (30579272)
高橋 宗良 玉川大学, 脳科学研究所, 特任准教授 (70407683)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 評価の意思決定 / 視覚選択的注意 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトでは、九州大学で2人、福島県立医科大学で3人のパーキンソン病患者を対象に3つの行動実験を実施した。ドーパミン細胞の研究からは、予測と結果のずれが大きいほどドーパミン活動は大きくなる。主観的な報酬評価についても予測とのずれに影響される「ドーパミン仮説」が考えられる。一方、ミクロ経済学のフレーミング現象からは、報酬が高く予告されるほ実現した報酬の評価が上昇する「伝染仮説」が考えられる。予測情報がどのように主観評価に影響するかを調べるため、我々は予測的手がかり呈示の後に自然な食品画像を呈示し好悪を採点評価する意思決定パラダイムを作成した。報酬手がかりの色は予測の妥当性(50%または100%の信頼性)を示し、形状は報酬の価値(嗜好的または嫌悪的のいずれか)を予告した。また、予測的手がかりから食品画像が呈示されるまでの遅延時間も予告した(1秒または9秒)。参加者はレバーを使用して-10から10までの連続的なスケールでターゲットの食品画像を評価するように求められた。予測的手がかりの妥当性は主観評価と反応時間の両方に有意に影響し、画像が嗜好的か嫌悪的によって対称的であった。食品画像の平均評価値は、100%の予測妥当性を示す手がかりの後で最も高く、50%の手がかりの後で最小であった。一方、反応時間は100%の予測妥当性を示す手がかりの後で最も速く、50%の手がかりの後で最も遅かった。結果の傾向は「伝染仮説」を支持するものであったが「ドーパミン仮説」からは予測できないものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
結果は期待されるよりも小さなサンプルサイズで、二つの代替仮説を分離するうえで非常に決定的なものであることが明らかにされた。さらに、視線の追跡および瞳孔の拡張についてのデータは予想以上に有益なものであった。評価の意思決定に対する期待の影響を分離することに加えて、競合か非競合かの条件による影響を調べるための第二の研究が可能であった。先行研究は選好形成における視線のバイアスの役割を明らかにしている。これは選好の表現だけでなく、因果関係があると解釈することも可能である。この仮説によれば、参加者が対象物を見ている時間が長いほど、その対象物への評価を高める可能性が高くなる。しかし、これまで視線と選好との関係は、自分のペースで対象物を選択する条件下で主に検討されてきた。そこで、時間制御の条件下では視線と選好の関係が成立しなくなるという仮説を立てた。刺激の呈示時間の影響を調べるため、我々は自分のペースで刺激を視聴できる「自己」条件、刺激の視聴時間に制限がある「コンピュータ」条件を用いて、自然な食品画像の評価プロセスを検討した。コンピュータ条件では、画像の視聴時間は1~8秒の間でランダムに制御され、参加者は画像の視聴後にのみ評価を行うことができた。自己条件では、参加者は望む限り制限なく自由に画像を視聴することができた。画像の視聴時間、評価および反応時間が記録された。自己条件は、視聴時間と評価との間に有意な相関がみられた。一方、コンピュータ条件では、視聴時間の評価への有意な影響はみられなかった。さらに、視聴時間の増加に伴い反応時間が有意に減少しており、参加者が視聴中に評価を形成していたことが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
プロジェクトの二年目からは、初年度におけるローレンス研究室の空間手がかり研究の結果に基づき、同課題をfMRIおよびパーキンソン病患者の研究に適応する予定である。小林研究室では、注意と意思決定の神経基盤を疾患モデルで検証するため、確立された行動課題のパーキンソン病症例における検討が終了した後に、他の疾患にも対象を広げて検討する予定である。アルツハイマー型認知症における注意障害や記憶能力の障害が、価値に基づいた意思決定にどのような影響を与えるかは、過去に検討されておらず重要なテーマである。その他、前頭葉損傷に伴う遂行障害や頭頂葉損傷に伴う空間性注意障害などを患う症例も、注意と価値判断の関係性を検討するうえで興味深いものである。 さらにプロジェクトの二年目は、注意の配分が記憶に与える影響を検討するため、空間手がかりと時間制御を利用した新しい行動課題を開発することを目指す。情報統合仮説から派生する重要事項の一つとして、注意と連合学習および記憶の問題が挙げられる。例えば、ある対象物について意思決定をする場合、その対象物への注意が大きいほど質的、量的ともにより豊なエピソード記憶が想起され、それが意思決定に影響すると考えられる。喚起される記憶を介して注意が意思決定に影響を与える場合、その効果は記憶を媒介するため間接的で時間的に遅延を伴う。 記憶が意思決定に及ぼす影響を次の二つの方法で検討する。①参加者に再度実験へ参加してもらい、過去の視覚刺激をどのくらい覚えているか記憶テストを行い、以前の実験での選択行動、定位行動との関連を検討する。②参加者に以前用いた対象物と新しい対象物からなる新しい選択肢を呈示することにより、選択行動と注視のパターンに対して記憶が間接的に及ぼす影響を検討する。
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Research Products
(8 results)