2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H03777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小方 直幸 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (20314776)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国立大学改革 / 人文社会系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界的に大学を取り巻く環境が変化し、かつ重要性が高まっているにもかかわらず、研究上も実践上も確立途上にある、大学の組織的改編を取り上げ、政治・社会的文脈の影響下にある学問のあり様を捉える研究枠組を、人文・社会系学問を対象に構築することを目的としている。中でも、国立大学の人文社会系学部の改組を中心に取り上げ、改革の背景、力学、そして過程を明らかにすることで、人文社会系の教育並びに学問のあり方を考察することに主眼をおいている。 一年目に実施したマクロ統計に基づく人社系の日本的特性の分析や改組の全体状況を踏まえ、本年度はまず、昨年実施できなかった海外における人文社会系教育の動向について訪問調査を実施した。訪問先は台湾、中国、そして英国の3ヶ国で、何れの国においても、エンプロイアビリティに対する要求を受けて、複数の学問分野(例えば語学と経営)を学ぶ人社横断的プログラムや、企業と連携したプログラムの構築を試みている実態を明らかにした。またその取り組みは、学士課程の教育組織の構造とも関連していることがわかった。 他方で、我が国における国立大学において新たに設置ないし改組が行われた人文社会系の学部に対する訪問調査を実施し、人事やカリキュラムの作成に関して、文科省や学内とのやり取りについてインタビュー調査を実施し、また学部等設置認可申請書類や学内研究者要覧等を用いて、組織、専門分野をめぐる人の異動状況やカリキュラムの構造に関する客観的な分析を併せて行った。当該大学の持つ資源の状況に依存しつつ、学部名称からは判断できない各大学の文脈・戦略に基づく特徴のある取り組みを行っていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我が国で生じている事象の類似性や特殊性を理解するためにも不可欠であった、昨年度予定していたが実施できなかった海外調査を複数の国において実施し、社会の要求に対して人文社会系が置かれている状況の類似性と同時に、各国の高等教育制度・歴史や学士課程の教育組織の特徴に応じた方向性や戦略が採用されていることを抽出できた。 また学部名称や主たるカリキュラムの特徴は類似している複数の学部のケーススタディを実施することで、学部の新設・改組をめぐり、政策や学内の影響が必ずしも一様でないことや、既存・新規の人事の規模や取りそろえる専門分野の範囲は、各大学に既にある学部やセンター等の状況に強く依存していること、カリキュラムの作成にあたっては、当該学部の学士課程教育の目標設定だけでなく、文科省や全学的な視点も入り込んだ複雑な力学の下で構築されていることが明らかにできた。 上記のうち後者については学会発表を行い、また査読付き論文への投稿も行ったが、論文については残念ながら採択には至らなかったため、今年度さらに公表の方法を検討して対応する予定でいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまで訪問調査を実施してきた複数学部がいわゆる完成年度を迎え、はじめての卒業生を送り出す時期にあたる。そのため、1~4年生の在学生を対象にした、学生調査を実施、新設・改組学部が当初目指した方向性がどの程度実現できているか、学生の目から検証・評価することを目的としている。 調査の協力依頼については、その可能性について前回の訪問時に打診・依頼をしており、本年度は具体的な調査票を設計した上で改めて調査協力を求め、複数学部で比較が行えるように進めていく。また、調査票の作成準備や実施後の解釈を豊かにしていくために、在学生本人にも可能な範囲でインタビュー調査等を実施し、複眼的な目で分析を進める。 さらに、いわゆる地域や国際を学部目に冠する新設学部が増加する中、卒業生の就職先が具体的にどのような企業・団体・国に及んでいるのか、4年生については求職・雇用状況についても検討し、既存の人社系学部とは異なる求職・就職メカニズムとなっているのか、新たな就職先を開拓できているのか等も、併せて検証する。
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