2017 Fiscal Year Annual Research Report
道徳の教科化と教育の保守化をめぐる学校現場の政策受容過程に関する総合的研究
Project/Area Number |
16H03788
|
Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
紅林 伸幸 常葉大学, 教育学部, 教授 (40262068)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 瑛仁 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (30756028)
川村 光 関西国際大学, 教育学部, 教授 (50452230)
冨江 英俊 関西学院大学, 教育学部, 准教授 (70366805)
越智 康詞 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (80242105)
鈴木 和正 常葉大学, 教育学部, 講師 (80759077)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 道徳の教科化 / 特別の教科 道徳 / 教育改革 / ドイツの教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、2つの調査を中心に研究を実施した。第一は、教科化以前の道徳の授業の実施状況に関する補足調査である。質問紙調査による実施状況の把握は、平成28年度に実施済みのため、平成29年度は現場での授業参観と聞き取り調査を中心に行った。第二は、準備状況に関する調査で、学校現場が行っている道徳の教科化に向けての研修に参加し、その準備に関わることで、現場が道徳の教科化に向けてどのような動きを行っているかを確認した。以上の平成29年度の調査では、小学校の学校現場での「特別の教科 道徳」の準備が、多くの教育課題を抱える中で、必ずしも最重要項目となっていなかったことが明らかになった。特に、複数の教育課題に取り組むことが求められる中で、学校現場はその緊急性、緊迫性という観点から、対応に軽重をつけて対応せざるを得ず、今期の教育改革において小学校は外国語教育への対応により大きな比重を置いていることが明らかになった。また、小学校教員へのヒアリング調査によって、道徳の教科化への現場の準備に切迫感がなかったことには、教育委員会が主催する研修などが組織的・計画的に実施されたことに加えて、教員が既に道徳の実践を行ってきていることに対する信頼があることが明らかになった。 また、併せて海外の道徳教育の動向に関する視察調査は、EUの中心国としてグローバリゼーションという国際的課題と、東西統一という国内の課題を抱えるドイツを対象とした海外視察調査を実施した。ドイツでは、国際化よりも東西統一と難民問題という国家的な課題への対応が学校現場において重視されていること、民主主義の維持・実現が課題となっており、それが教職の自律性によって保証されると考えられていることなどが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は5年間の研究期間を通して、道徳の教科化前後の道徳の授業の実施状況の比較研究、道徳の教科化に対する学校現場の対応状況の記述的研究、道徳の教科化の社会的な意味の検討という3つの調査を実施することによって、道徳の教科化という歴史的な改革事案を学校現場が受容するプロセスを明らかにすることを目指すものである。 教科化以前の道徳の授業の実施状況に関しては質問紙調査を実施することによって、一定の把握ができた。その結果は、平成29年度に「小・中学校における教科化前の道徳の授業の実施状況-2016年度質問紙調査の結果から-」(常葉大学教育学部紀要第38号、2017年12月)として発表した。道徳の教科化に対する学校現場の対応状況については、学校現場の研修への参加とヒアリング調査を実施することができ、またそれらの調査を継続できる状況を整えることができた。ただし、学校現場が現在多忙解消に取組んでいることもあり、予想以上に研究協力を得ることが困難になっている。ギリギリのラインで計画通りの進捗を実現していると言ってよいだろう。 海外視察に関しては、前年度のスイスに続き、平成29年度のドイツでも現地の研究者、教育機関等から全面的な協力を得ることができ、州の教育方針や、現場での実践の実態などに関わって、詳細な情報を得ることができた。データの公表には制約がかかるが、研究としては期待以上の成果を得ているといえる。現在視察結果を報告書(学部紀要に掲載予定)として整理する作業を進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度までの研究は概ね順調に実施できている。道徳の教科化前の道徳の授業の実施状況についての定量的なデータの作成は完了し、小学校における授業データの観察と収集も完了した。平成30年は、中学校が平成31年度の「特別の教科 道徳」の完全実施を控え、教科化前の実施状況を確認できる最終年度であることから、中学校の道徳の授業の観察と、教科化に向けた準備活動などの観察及びデータ収集を行う。 また、小学校については、「特別の教科 道徳」として道徳の授業が行われていることから、その実施状況に関してヒアリング調査を実施する。この作業は平成31年度以降も継続し、順次中学校も加えていく。 海外視察調査では、スイス、ドイツと異文化を統合する課題を抱えた国における道徳教育についての調査を実施してきたので、平成30年度は逆に国家が分離した国における道徳教育についての研究を行う。対象国としてはチェコを予定しており、既に実施に向けて研究協力者との間でプランニングに入っている。 以上の当初計画に基づく研究の遂行と併せて、教職課程での道徳教育に関わる学習についての研究を、新規の研究課題として加えることを予定している。学校現場は、異なる道徳教育観を持つ教師たちが、学校単位で統一された教育方針を持って「特別の教科 道徳」に取り組まなければならないという教育課題に直面している。新しい教師たちが教員養成段階でどのような道徳教育観を学修して教師になっていくのかについて、研究を展開していく予定である。
|
Research Products
(4 results)