2017 Fiscal Year Annual Research Report
熱電変換素子応用のための窒化インジウム系半導体の潜在能力開拓
Project/Area Number |
16H03860
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
荒木 努 立命館大学, 理工学部, 教授 (20312126)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
名西 やす之 立命館大学, 理工学部, 授業担当講師 (40268157)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 窒化インジウム / プラズマ / MBE / 転位 / ゼーベック係数 / エピタキシャル成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、InNが有する高いゼーベック係数に着目し、これを熱電変換素子として応用するための可能性を追求している。まずは高い伝導率を有するp型InNを実現するためのキーテクノロジーとして、InNの貫通転位密度低減に取り組んだ。 昨年度の成果において、RF-MBE法を用いたInN成長中の窒素プラズマ照射による表面改質(In-situ Surface Reformation by Radical-beam Irradiation)を利用して、転位密度を低減できる可能性を示した。 本年度は、窒素プラズマ照射の条件や膜構造(照射回数や膜厚)を変化させて、窒素プラズマ照射による転位密度低減効果の詳細を検討した。 まず、照射回数を1~5回の比較を行い、貫通転位に与える効果および特性について調べた。この検討では照射2回で2段階の刃状転位減少がみられたが、電気的特性の低下が得られた。さらに、照射回数の多い5回では貫通転位の減少は観察できず、電気的特性の悪化を導いた。これらは窒素ラジカルビーム照射間の膜厚が異なることが影響していると考えた。プラズマ照射成長界面では、表面改質とともに点欠陥などのダメージ導入によって電気的特性が悪化することがわかっている。よって、転位密度低減効果は得られる一方で、膜全体としての電気的特性はプラズマ照射界面の複数導入によって悪化したものと考えられる。 続いて、窒素プラズマ照射を行うInNテンプレートの膜厚の効果を検討した。テンプレート膜厚を100~700 nmで成長を行い、貫通転位の挙動および特性を調べた結果、膜厚が薄い場合、界面での十分な転位の曲がりが観察されず、転位密度低減効果が得られなかった。これは界面で転位が曲がるために必要な歪エネルギーが不十分であったためと考えられる。 これらに加え今年度はゼーベック係数測定装置の立ち上げを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
窒素プラズマ照射による転位密度低減については、その効果を確認することができ、また窒素プラズマ照射時のパワーや温度、時間、照射回数や照射時のInN膜厚の影響など、条件確立やメカニズム構築のための基礎的知見はこれまでの実施によって多く得ることができた。成長中のプラズマ照射導入によって、再成長界面で貫通転位が曲がり、消滅や融合することによって、再成長層では局所領域では1/10程度、全体としても1/3程度の転位密度低減効果が得られることを明らかにできた。本手法は、基板を取り出すことなく、in-situで条件を変えたり、繰り返し行える特徴があるため、条件の確立によってさらなる転位密度の低減が可能となることを期待したい。 一方で、本来の目的である、転位密度低減によりInN中の残留キャリア濃度を低減し、p型伝導を実現するというターゲットに関しては進捗が遅れている。プラズマ照射時に界面に点欠陥などのダメージ導入によって電気的に特性が悪化する層が導入されるため、膜全体としての電気的特性の改善(残留キャリア濃度の低減)が明確には得られていない。これに対しては、ダメージ層を導入せずに転位の曲がりを促進させるような表面構造の導入手法として、KOHを用いた表面エッチングや成長モードの変化による表面ラフネス変化を導入することを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は3年を予定しており、2年目を終えた時点での今後の研究推進方策として、次の2点を挙げる。 まず、InNのp型伝導実現への道筋をつなぐためには貫通転位密度の低減は必要不可欠であり、これまでに得られた成果・知見を活かし、さらなる転位密度低減のための技術開発を継続する。具体的には、現状として10^9/cm^2台の転位密度が得られているので、これをできる限り広い結晶領域で10^8/cm^2の状態まで転位密度を減少させたい。このため、窒素プラズマ照射導入によるアプローチと並行して、エッチングを施したテンプレート基板の利用や、成長モードを変化させて三次元構造を形成する方法の導入を図る。 次にInNによる熱電変換素子応用に不可欠な大きなゼーベック係数の検証をp型ドーピングInN結晶を用いて実施する。p型ドーピングには従来広く用いられているMgを使用するが、その条件は未だ確立されたものではない。RF-MBE法を用いた従来のInN成長や、我々のグループが開発したDERI法によるInN成長、そして最終的には本研究課題で検討した転位密度低減技術を施したInN成長に対してMgドーピングを行うことで、p型ドーピングInN試料を作成し、熱電変換素子としてのゼーベック係数の可能性を検証する。
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