2016 Fiscal Year Annual Research Report
低振動数スペクトルに現れる有機分子結晶中不純物分子の影響解明とその利用
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16H03882
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
佐々木 哲朗 静岡大学, 電子工学研究所, 特任教授 (20321630)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 知昭 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 室長 (40311386)
大塚 誠 武蔵野大学, 付置研究所, 教授 (90160548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 微量検出 / 医薬品検査 / テラヘルツレーザー分光 / 中分子量 |
Outline of Annual Research Achievements |
①格子欠陥がテラへルツ吸収スペクトルに与える影響の解明 測定対象としてアミノ酸を選定し、ここに不純物を0.005%~12.5%の範囲で不純物有機分子を濃度制御しつつ故意に導入したものに、高精度テラヘルツ分光スペクトル測定を適用し、周波数シフト及び半値幅の変化量によって不純物量をppmオーダーで定量検出できることを示した。更に予想外の結果として、それらの変化が複数の吸収線で異なる傾向を示すことを発見したが、これは振動モードに依存して差が生じることを示唆していると考えられる。つまり、不純物の量だけでなく、不純物分子の種類も見分けられると考えられ、この技術の適用範囲の大幅な拡大が期待できる。また、中分子量分子では室温において特徴的なスペクトルが観測されないものの液体ヘリウム温度の低温ではシャープな吸収が観測され、やはりこの技術が適用可能であることを見出した。尚、これらの試料は同時に、従来結晶性の標準的評価方法として用いられているXRD測定も行い、XRD測定では判別が困難であることを確認している。 更に、密度汎関数法による量子化学計算を実施して振動モードを確認し、武蔵野大学所有の単結晶成長装置を用いて作成した単結晶のスペクトル異方性と照合して分子振動の帰属に成功した。医薬品を対象とすることを想定し、国立医薬品食品衛生研究所で検討・選定された日本薬局方登録薬品の中から、測定に適当な分子2種類と、製造現場で起こり得る混入不純物をそれぞれ選定したので、次年度実施する予定である。 ②高速精密吸収周波数シフト計測システムの開発 吸収周波数を精密に測定して周波数シフト量を高速に検出するために、位相検波の技術を利用した測定システムを構築することを目的として、周波数変調が可能な赤外励起レーザーを導入して周波数変調テラヘルツスペクトル測定装置を構築し、周波数変調特性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①格子欠陥がテラへルツ吸収スペクトルに与える影響の解明と②高速精密吸収周波数シフト計測システムの開発の二つのテーマについて、おおむね計画書に記載した通りに進んでいる。 加えて更に、①のテーマに関連した予想外の結果として、複数の吸収線において周波数変化量が異なる傾向を示すことを見出した。計画では微量不純物を検出・定量することを具体的目標としていたが、更にその不純物分子の種類も見分けられる可能性が出てきた。 また、いわゆる中分子量分子に相当する分子量1,000程度の有機分子は多数の吸収線が存在するために吸収線の観測は困難と思われていたが、液体ヘリウム温度程度の低温にすることで非常にシャープな数多くの吸収線を観測できることを見出した。中分子量分子による医薬品は、技術的及び特許戦略的に今後の医薬品開発において重要な位置づけと考えられる。 これらの結果から、本開発技術の医薬品分野での適用範囲が大幅に拡大されることが期待でき、産業上の大きなインパクトに繋がると考えられるので、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
①格子欠陥がテラへルツ吸収スペクトルに与える影響の解明 概ね計画通りであるので、予定通り医薬品に対象を変更して、より実用性を示せるデータを取得する。この時、開発している測定手法を適用する際に、適用が容易な対象試料と困難な対象試料があることがわかった。これは主に、着目する吸収線の周囲に他の吸収線が存在しないことと、比較的高い温度でもともと線幅が狭いことが必要である。無数の候補試薬の中から、このような対象分子を探すことが困難ではあるが、医薬品スペクトルデータべース構築を進めるとともに、更に量子化学計算によって適当な分子を選定する方法を開発したので、これらを相補的に活用して克服したいと考えている。 いっぽうで、吸収線が必ずしも一つの分布関数でフィッティングできないことが判明し、中心周波数や線幅の取得方法、計算方法に改良が求められる。技術的には高速精密吸収周波数シフト計測システムによる位相検波を利用できると推測しているが、本質的には分子振動レベルで原因を検討しなければならないと考えている。 ②高速精密吸収周波数シフト計測システムの開発 既にシステムを構築したので、これをアミノ酸や医薬品に実際に適用することを進める。周波数変調範囲が100GHz程度まで広いと都合がよいことがわかったので、このような変調帯域幅拡張を図るとともに、前述のように吸収線が対称的ではなくなる現象が見られるので、それでも評価・計測できるようなアナログ演算、およびソフトウェアによるデジタル計算処理を検討する。
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Research Products
(10 results)